58.深紅の季節——私たちは入れ替わっていた
今日は決戦の日だ。
本来であれば、私が命を失った日。
百ポンドの契約を勝ち取る奇跡を起こした時は、少年の格好をしていた。
今日も動きやすい、決戦にふさわしい格好にしなければ。
ボルドーのロングジャケットをクローゼットから取り出し、ベッドの上に広げた。
白いブラウスにクラバット風リボンをし、乗馬用スカートを履いた。靴は走れるように革ブーツだ。ロンドンの泥はねをモノともせずに、私を守ったのはジャックのブーツだったのだから。
ブロンドの髪は後ろで低く束ねて、リボンで結んだ。アーニャとしてホーソーン商会の仕事をするので、最近はいつもこのヘアスタイルだ。
ボルドーのロングジャケットを最後に羽織り、ダークブラウン革のサッチェルを鞄として肩からかけた。そして、机の上に置かれていた革表紙の手帳を鞄に入れた。
そのまま部屋を飛び出した。
「あら、キャロライン、どうしたのその格好?」
「乗馬に行くのか?」
「お嬢様っ!」
背中から母と父とネルの言葉が追いかけてきたが、私は階段を飛ぶように駆け降り、大サロンを抜け、玄関ホールを飛び出した。
執事が慌てて何か言っていたが、私は真っ直ぐに厩舎に向かい、気心の知れた馬番に笑顔を向けて、何気ない手慣れた手つきで馬の手綱を取った。
「お嬢様、お久しぶりです」
「えぇ、久しぶりね。3年ぶりかしら?」
私は昔からよく知る馬番に聞いた。
「あぁ、ちょうどそのくらいになりますね」
馬番のその言葉が、頭の中で何かを解きほぐした。
私の体にいたのはアーニャだ。
私たちは、入れ替わっていたのだ。
私はずっと昔の自分がそのまま残っていると思っていた。
でも、間違いない。
私の部屋の机の上にあった革表紙の手帳。
3年前、ヘザーが丘を紫に染めたあの日から、消えていたものだ。
キャロライン・レッドワイクが私の部屋にやってきて以来、行方不明になっていた手帳だった。
あの短い時間で、あの引き出しを開け、手帳を持ち出せる人間は、一人しかいない。
――本物のアーニャ・ホーソーンしかできない。
そして今、その手帳は、キャロライン・シーブルックの寝室に置かれてあった。
私は、その意味を理解した。
この3年間。
私たちは——。
私がアーニャの体の中にいた時、アーニャが私の体の中にいた。
私たちは、3年間入れ替わっていたのだ。
エドワードに会いたい。
今すぐに。
何がなんでも会いにいかなければ。
――今日のあの時間が来る前に。




