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私は結婚前から邪魔者だったのね!?お金以外は必要とされなかった妻でしたが、貧乏男爵家の再興が私の運命でした——そして嫁ぎ先は王家になりました  作者: 西野 歌夏
第3章:ヘザーの季節——私のタフタドレスではない

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48.ヘザーの季節——私の隣のシンデレラ

 結局、社交という名の商売拡充に精を出した私が、その夜ダンスを踊ったのは、2人だけだった。


 最初の王子殿下と、最後のグレイ。

 この2人だけだった。


 私がこそこそとダンスカードに密談の内容を記していると、背後にグレイがやってきて、そっと首を出してきてカードの中身をのぞいた。


「きゃっ!グレイ、びっくりするわ」

「いや、驚かせてごめん」


 グレイはくすくすと笑いながら、私の様子を楽しげに眺めた。


「商売繁盛、結構なことだね」

「本当なの、聞いて。王子殿下と踊ったの!夢のような瞬間だったわ」


 私の言葉を聞いて、グレイはクスッと笑った。


「へぇ、王子殿下はどんな人だった?」

「素敵なの。最高なの。全てを忘れさせる程のインパクトがあるお方だったの。でも、誰かにすごく似ているような感じがあって、ものすごく安心できたのよ」


 グレイは無言になり、一瞬の間があった。


「楽しかった?」

「えぇ、とても!私は初めて舞踏会が好きになれそうだわ。大口顧客がゴロゴロいるんですもの」


 私たち2人だけの会話は楽しかった。

 グレイはどこか満足げだった。


「さあ、明日から配達が大変よ。ジャックさんもミラーさんもみんな大忙しだわ。ギデオンに報告したら腰を抜かすわよ」


 シャンデリアと香水と、クルクルと豪奢な絹が床の上を舞う舞踏会の場には、およそふさわしくない会話だった。


 しかし、グレイは私を完璧にエスコートして、帰路に着いたのだ。


「シンデレラってこんな気分なのかしら?」

「え?」

「王子殿下と踊ると、何もかも忘れられない程の幸せな瞬間が一瞬訪れるのよ」

「そうなんだ」

「でも、現実に帰るの。私の場合はグレイが隣にいてくれる素敵な現実にね」

 

 ……。

 

「今日のアーニャ・ホーソーンは、はたから見るとシンデレラかもしれない。でもキャロライン・シーブルックの本音としては、あなたが隣にいる世界の方がシンデレラの気分だわ。灰かぶりの現実の方は、忌まわしいレッドワイクの方だと思うから」


「私の隣にいる今が、シンデレラだと言っている?」

「えぇ、幸運な状態よ」


 スッとグレイが息を吸った。胸を抑えて静かに息を吐いた。まるで何かに耐えているようだ。


 グレイは静かな声で言った。


「王子殿下にとっては、地位や名誉や財産を使っても、何もかも使っても、君をシンデレラにできない。君をキャロライン・シーブルックの体に戻してあげたいのに、それだけは何を差し出してもできない。そばにいて力になることぐらいしか、できない」


 ――王子殿下が、そこまで私の事情を知っているはずがないのに。


「ただ、私の隣にいる君は、シンデレラの幸運な状態の気分だと言われて、非常に光栄だ」


 グレイのエスコートは、完璧だった。


 私が王子殿下主催の舞踏会から帰還した夜、遅くまで起きていたホロウェイ夫人、ブリジット、リディア、エリスは、温かいポタージュを作って空腹の私とグレイを待っていた。サンドイッチの軽食ぐらいしか舞踏会では出ない。


 商売を成立させてきた私は、ホーソーン・マナーの人々と村人たちに新たな仕事をもたらした。

 

 ヒースの丘が紫に染まったヘザーの季節は、社交界と密輸品販売といった胸踊る興奮の幕開けだった。


 そして、大口顧客を獲得した翌日、シーブルック家からの資金供与停止の手紙を持って、キャロライン・レッドワイクがホーソーン・マナーを訪ねてきた。そのシーブルック家からの封は、冷たいほど整っていた。



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