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私は結婚前から邪魔者だったのね!?お金以外は必要とされなかった妻でしたが、貧乏男爵家の再興が私の運命でした——そして嫁ぎ先は王家になりました  作者: 西野 歌夏
第3章:ヘザーの季節——私のタフタドレスではない

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47.ヘザーの季節——ダンスカードの密談

 胸がときめかなかったと言ったら、嘘になる。

 手の温もりも、声も、時折ちらっと視線が絡む眼差しも、全てが最初から知っていたかのように、心地よかった。


 頭は真っ白になっているのに、夢心地の境地に到達し、私はクルクルまわり、ベルローズ夫人のドレスは華やかに風のように舞踏会場のピカピカの床の上を舞った。


 無我夢中だった。


 痛いほどの視線を浴びていることも、すぐに頭から消えた。


 腰を引き寄せる王子殿下の力強さも、私の手をしっかりと離さない指も、私の足と息を合わせて踊る足さばきも、何もかもが最高の幸せを胸に抱かせた。


 ――ダンスとは、これほど楽しいものだった……?


 それだけが頭にふっと浮かんだ。

 舞踏会が開かれる意味合いが、ここで結婚相手を見つけるという意味合いが、初めて私の中に落ちてきた瞬間だった。


 曲が終わり、私は息を弾ませていた。


「楽しんで」


 低い低い声が私の耳元で囁き、私はビクッと肩を震わせた。


 ゾクゾクするほどよく知っている声に思えた。


 王子が立ち去るとすぐに誰かが私に話しかけた。

「これはこれは、ホーソーン男爵令嬢ですね。お初にお目にかかります。ハロウゲイトと申します」


 私はハッとして顔を上げた。扇子で顔を半分隠した。咄嗟のことだ。


 彼は私の今の顔を知らないはずだが、キャロライン・シーブルックはサー・エドマンド・ハロウゲイト子爵を知っている。シーブルックの父が「黒」と断じた男だ。表の顔は密輸の取り締まり役——しかし裏では何をしているか。


 シーブルック・ハウスにハロウゲイトを招いたのは2度だけだ。すぐに父は見破り、ハロウゲイトと私的な交流をするのを避けた。


 粉を振った銀のカツラをかぶり、額の上を膨らませ、後ろで一つに結んだハロウゲイトの瞳は黒かった。


「アーニャ・ホーソーンと申します」


 彼は私の手を取り、唇を寄せた。触れてはいないはずなのに、まるで唇で触れられたかのような不快感が残った。


 王子殿下が触れた手に、ハロウゲイトが触れるのが嫌だ……一瞬、浮かんだその考えに私は驚いたが、よく考える前にハロウゲイトが私に聞いた。


「王子殿下とは随分仲が良いのですね」


「え……?」


 ――そうかしら?

 ――一度踊っただけで、随分と仲が良いとなる……?


 私はそこで、周囲の突き刺すような視線にようやく気づいた。


「一度踊ったぐらいですわ。これからもどうぞよろしく」


 私はハロウゲイトに言うと、スッと背筋を伸ばして歩き始めた。


 ブライトン一の仕立て屋で湯水のように仕立てていたのはどこの貴族か。


 今日は久しぶりに貴婦人たちにお近づきになれるわ。

 王子殿下の威力を、今こそ、遺憾無く発揮する好機だ。


「はじめまして、アーニャ・ホーソーンです」


 私はブライトン随一の資産家、レディ・アッシュフォードの元へ向かった。レディ・アッシュフォード――香水の匂いよりも金の匂いに敏い女だ。


「あら、王子殿下と踊っていた方ね。ねぇ、お仲がいいの?」

「まぁ、少しばかり」


 私は意味ありげに囁き、さりげなくバルコニーに誘い出した。


 小声で絹とレースの値段を告げる。ノルマンディから届いたと囁けば、大口顧客はピンとくる。


「屋敷に現物で納品してくれるかしら?」

「わかりました」


 私はこうして、茶、ブランデー、絹、レースを売る密談をどんどん成立させていった。


 私への注目度は天井しらずだった。

 王子殿下が姿を現すなり、私にダンスを申し込み、1曲踊った。


 それだけで、今宵の私の知名度は舞踏会場内の最上位に躍り出ていた。人々の好奇の視線と密談は相性が良かったのだ。


 控室では、ダンスのカードを書くフリをして、ダンスカードに次々に売買成立の内容を記した。覚えられないぐらいの内容だった。



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