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私は結婚前から邪魔者だったのね!?お金以外は必要とされなかった妻でしたが、貧乏男爵家の再興が私の運命でした——そして嫁ぎ先は王家になりました  作者: 西野 歌夏
第3章:ヘザーの季節——私のタフタドレスではない

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46.ヘザーの季節——息をするんだ

 舞踏会当日、グレイがエスコートした。


 彼は、生地の質で一級品と分かる深い黒のコートを纏い、白いシャツを隙なく整え、喉元のクラバットを完璧に結び、体にピッタリと沿ったシルエットだった。赤茶色の髪は後ろで結ばれていた。


 こうして私は、王子殿下主催の舞踏会に参加した。


 舞踏会の入り口で、グレイは一度足を止めた。


「いいね、キャロライン。君がこれまでシーブルックの娘として出席してきた数々の舞踏会とは少し違う。貴族が参加する王子主催の舞踏会だ。少しこれまでとは勝手が違う」


 低く、静かな声だった。


「えぇ、グレイ」


 差し出された腕に手を添えた瞬間、私は初めて気づいた。


 ーー彼はこの場に慣れている?


 磨かれた靴音、姿勢、メガネの奥の視線の配り方。いずれも自然で揺るぎがない自信に満ちていた。


 私は導かれるまま、華やかな光の輪の中に足を踏み入れた。


 私がよく知っている舞踏会の空気だ。

 天井には幾重にも重なるシャンデリラが吊るされ、蝋燭の光がガラスに反射して、空間そのものが輝く。


 極上に磨きあげられた床の上を滑るようにドレスの裾が流れていく。絹が擦れる音、さざめくような笑い声、香水の甘い香り。


 だが、視線だけは違った。

 シーブルックの娘が今まで参加した舞踏会より、全てが一段上だ。眩いばかりの光の強さも、向けられる視線の強さも、選別の厳しさも。

 

 ーーこの世界はよく知っている。でも、今日の舞踏会は意味が違うわ。


「少し席を外す」

 グレイはそう言って、私の手をそっと離した。


「すぐ戻るよ」

 私はその言葉に心細さを覚え、胸がざわつくのを感じた。


 グレイの手の温もりが消えた、その直後だった。


 会場に突然静けさが訪れた。皆が話すのを一斉にやめた。 


 視線でグレイを探していた私の目は、王子殿下が会場に姿を現したのを捉えた。


 淡い銀灰のコートは光を受けて柔らかく輝いていた。ゆったりとしたあつらえで、体のシルエットまでは分からない。シルバー刺繍が施され、真珠ボタンが光に輝き、真新しい白手袋が目に痛いほどの輝きを放っていた。胸元には控えめに光る勲章が一つ。


 ブロンドの髪は粉で白くはされていない。柔らかく波打つ髪がそのまま整えられ、光を受けて淡く輝いていた。


 先ほどまで私の隣にいたグレイの赤茶色の髪とは対照的だった。


 ーー空気が変わったわ。

 

 誰もが、彼の登場を待っていたかのように静まり返っている。


 王子殿下は従者にコートを預けると、私の方に真っ直ぐに歩いてきた。


「踊っていただけますか?」


 低い低い声だった。微かによく知っているような気がしたが、一斉に皆の視線が私に集中するのがわかり、私の頭はパニックになった。


 ーーしっかりして!

 ーー密輸品の卸先を見つけるのは、このくらいの注目を浴びておく必要はあるわ!


 人々の意識に今日の私の存在をまずは刷り込む。そのためには、王子殿下とのダンスは最高の演出になる。


 淡い銀色のゆったりとした衣装に身を包んだ王子殿下は、私の手を取った。グレイの手の温もりによく似ていると思ったが、緊張のあまり、生きた心地がしない私は、その考えを打ち消した。


 曲が流れ始め、私と王子殿下は踊り始めた。

 私はあまりに恐れ多くて、視線を合わせることもできない。


 低い低い声が耳元で囁いた。


「息をするんだ。皆が見ているから、堂々と」


 淡いブロンドの髪がふわりと一房落ちた。その奥で輝く薄いグレーの瞳のその方は、どことなく既視感があった。


 その声を、私は知っているはずだった。


 だが、私の心臓は今にも飛び出しそうにドキドキと打ち、頭の中は真っ白だった。


 頭の隅でミス・フィンチに厳しくダンスを叩き込まれたことだけは感謝した。


 この場で皆の視線を一気に集めるということがどういうことなのか、私はこの時はまだよく分かっていなかった。



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