42.キャロラインSide——キャロラインになったら
昨晩、興奮冷めやらぬ中で皆が帰った後、静かになったホーソーン・マナーの庭で、私とグレイは星空を眺めていた。
真っ暗闇の中で空の星だけが輝き、グレイの顔も姿もよく見えなかった。
ただ、そこに彼がいてくれる。
それだけで、私の心は落ち着き、心強さを感じていた。
あの、ロンドンの一人旅で彼が泣きながら一晩中探し回ってくれたこと、私を見つけた時に泣いてくれたこと、一緒に二輪馬車の強行旅で帰ってきてくれたこと、彼は特別な存在だと思った。
今まで、私はこんな扱いを一度も受けたことがなかった。
グレイが静かに言った。
「私たちも運命共同体のつもりだ」
私は、彼をこれほどの国家を敵に回す巨大密輸事業に巻き込んでしまったことに胸が痛んだ。そっと手を伸ばして、彼の手を握った。
彼が手を握り返した。
その瞬間、心臓が跳ねた。
なぜだか理由は分からなかった。
ひとりぼっちのはずだったが、グレイがそばにいてくれて、彼を巻き込んだ。
これは運命共同体だ。そう思うことでしか、この胸の高鳴りに理由をつけられなかった。
彼に手を握りしめられていると、理由はわからない。ただ、胸の奥が落ち着かなかった。
――怖いのに、離れたくなかった。
気づいたら、口から言葉が出ていた。
「あなたがいてくれて本当に良かった。あなた無しではこんなことできなかった。キャロラインに戻ったら、真っ直ぐにあなたの元に行きたいわ」
私は心の内を明かした。
私たちは手を繋いでいた。
……なぜか、離したくないと思った。
「いつでも待っている。私の運命の相手はキャロライン、君だ」
グレイのくぐもったような声が聞こえた。
なぜか彼が泣いているように聞こえた。
あのメイウェアの通りで、土砂降りの中で彼が私を見つけて傘を差し出してくれた時のように。
「ありがとう。戻ったら、あなたの元に真っ直ぐに行くわ」
私は胸が熱くなり、そう答えた。
私たちはしばらく手を繋いでいた。
孤独の中で、ようやく見つけた光を放したくなかった。
グレイに部屋まで送られたあと、私は気になって倉庫の様子を見に戻った。そこでギデオンを見つけた。
「ギデオン、あなた何をしているの!?帰ったんじゃなかったの」
「へん、舐めてもらっちゃあ困るぜ」
「あぁ、積荷のそばで寝たいんでしょう」
私はよく分かった。
ーー昔から、あなたはそういう人だったわね。
「ご明答。こんなお宝のそばで寝れるんだぜ?金銀財宝の中で寝ているようなもんだ」
「まあね。どう、この倉庫、すごいでしょ?」
「凄いな。よく利用しようと思ったな。こっちも助かったぜ」
「それはこちらの言葉だわ。本当に助けてくれてありがとう。助かったわ。これから、ドンドン稼ぐわよ」
「おうよ」
ギデオンは無邪気な笑みを浮かべて言った。
「さっきのは、愛の告白だぜ?おまえさん、分かってなかっただろ?あれで分からないねぇなら、相当だぜ?おまえさん」
私は目をしばたいた。
どうやら、私は愛の告白をされたことが一度もなかったので、それがどういうものか理解していないようだ。
「さっきのって?」
「あぁー、ほら言わんこっちゃない……」
「胸によーく手を当てて考えてごらん、このギデオンおじさんはミス・フィンチでも教えられなかったことを見抜いているぜ」
分かった。
よく考えてみる。
――これは、責任なんかじゃない気がした。
「とにかく、俺はここで寝るから。邪魔するなよ」
「おやすみ」
「おう、おやすみ」
ホーソーン・マナーに積荷が運ばれた夜はこうして更けて行った。




