41.グレイSide——いつでも待っている
星がとても綺麗な夜だった。
あたりは真っ暗でお互いの顔もよく見えない。
さっきの興奮もどこへやら、村人たちも帰り、人夫も帰り、あたりは静まり返っていた。
隣にいる彼女に、私は思い切って胸の内を話した。
「私たちも運命共同体のつもりだ」
キャロラインの顔が見えなかった。ひょっとしたら、アーニャ・ホーソーンではなく、キャロライン・シーブルックに戻っているのかもしれない、とすら思った。
隣から手が伸びてきて、私の手をそっと握った。
温かなその手に、私は胸がどきんどきんと音をたて始めるのを感じた。
私は彼女の手に自分の手を絡めて、しっかりと握った。
私たちはただただ、夜空を見上げていた。虫の鳴き声がする。夜の闇に紛れて運ばれてきたのは、積荷だけではなかったようだ。キャロラインの心も夜の闇に紛れて私の元に届いたのか。
「あなたがいてくれて本当に良かった。あなた無しではこんなことできなかった。キャロラインに戻ったら、真っ直ぐにあなたの元に行きたいわ」
はっきりと彼女がそう言った。
――私の元に来たい……?
私は身体中がカッと熱くなった。
「いつでも待っている。私の運命の相手はキャロライン、君だ」
私たちはキスすることはできない。
なぜなら、本当の彼女の体ではないから。
暗闇の中で、姿もよく見えない彼女を私は見つめた。
「ありがとう。戻ったら、あなたの元に真っ直ぐに行くわ」
私たちはしばらく手を繋いでいた。
私の隣にいるのは、キャロライン・シーブルックそのままだった。彼女が私を初めて認識してくれた夜だったと思う。
***
翌朝になった。
ホーソーン・マナーの西側の客間で夜が明けた。私は胸が高鳴り、よく眠れなかった。
――そうだ、倉庫の見回りに行こう。
――何事もないはずだが……。
ホーソーン・マナーの敷地は広い。ジャック一人ではとても手入れが追いつかない。朝露に濡れた野薔薇やクローバーが咲く道を進むと、巨大倉庫が現れた。
入り口には、昨晩荷馬車や人夫が何十台も出入りした跡がくっきり残っていた。
――うん?
――変な音がする?
私はそのまま扉を開けた。合鍵を昨晩預かっていたのだ。
音のする方に積荷の間を歩いて行った。
「ギデオン!?」
いびきをかいて寝ていたのは、ギデオンだった。
「あんた、ここで寝たのか!?」
ギデオンは大の字になって寝ていたが、私の声でパシッと目を明けた。
ギョロリと私を見据え、なーんだと言った顔になった。
「あったりめえよ。俺は積荷の最高責任者だ。ギデオン商会は俺の会社だ。最初の倉庫の状況をチェックするのは俺の仕事だ」
そこから延々と始まった。ギデオンが持ち歩く野宿セットの説明を受けた。外套マントを上かけにする、麻袋を枕にして寝る方法などなどだ。ギデオンは仕事に命を賭けている男として、自画自賛を含めながら、私に説明をした。
「おまえさんは、こんなことしたことないだろ?」
「ないに決まっている」
「一度やってみるか?」
「私には必要ないっ!」
「いやいや、運命共同体としてはあんたが一番心強い存在なんだから」
「私は彼女と運命共同体なわけであって、あんたとは……」
「あら?ギデオンさん、どうされました?まさか、私どもの気が回らず、大変失礼いたしました。てっきり他の皆さんとご一緒にお帰りになったのかと思っておりました」
騒ぎを聞きつけて、ホロウェイ夫人がやってきたのだ。
オロオロとするホロウェイ夫人が言うには、倉庫の契約をしてくれた恩人ギデオンのために、昨日一生懸命客間を準備したのだと言う。そこにお泊まりくださいとホロウェイ夫人は懇願した。
自分のために皆で客間を用意したと懇願されて、ギデオンは満更でもない表情になった。
「まぁそうだな。ここは意外と安全のようだしな。誰も来なかった。村人もホーソーン家に忠実なようだし、何より、俺は男爵様にご挨拶をし損ねているしな。うんうん」
ギデオンはよっこらしょと立ち上がり、彼の主張する野宿セットとやらを丸めてカバンに放り込み始めた。
「お口に合うかわかりませんが、朝食を準備しております。グレイ様もギデオン様もどうぞ、食堂へいらしてください。まずは、ギデオン様を客間にご案内しますので、ついてきていただけますか」
ギデオンは満足そうな顔で頷き、ホロウェイ夫人の後をついて言った。
「気高いお方よ、倉庫の鍵を締め忘れるなよ。俺としては合鍵を持つ相手は、あんたが一番信用できる。まぁ、皮肉なことだがなっ!へへっ!」
私は正体を完全に見破られていると思いながらも、昨晩のキャロラインの言葉をもう一度思い出して、胸が熱くなった。
私と彼女は、運命共同体なのである!
――いや?一緒に仕事をする意味での運命共同体と受け取ってないだろうか?




