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私は結婚前から邪魔者だったのね!?お金以外は必要とされなかった妻でしたが、貧乏男爵家の再興が私の運命でした——そして嫁ぎ先は王家になりました  作者: 西野 歌夏
第2章:野薔薇の棘——ホーソーンの実

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40.野薔薇の棘——夜の運命共同体

「しばらく、ホーソーン・マナーで仕事があるから」


 グレイが夫人に告げた時は驚いた。


「あなた、仕事は?」

「地代があるのは本当だから」


 ジャックにイタズラっぽく囁かれて、私はこの人はどこまでもお人よしだと思った。私たちのために今日も付き合ってくれた。


 ジョナス・レジャーは私の横に立つグレイを見るなり、金額を誤魔化さず、私が計算した通りの金額であることを認め、あっさりと証文を出したのだ。小娘一人行ったら、逆にお金をもっと取られたかも知れなかった。


 約束の午後3時になり、ジャックと待ち合わせした場所に私たちは移動して、迎えにやってきたジャックの馬車でホーソーン・マナーに戻った。


 戻ると、何やら騒がしかった。


「よぉ、おまえさんら、何をおっ始めたんだ?」


 ギデオンがもう到着して、倉庫の鍵を開けて調べていた。


 職人がやたらと賑やかに働いている様子に、面食らったようだ。


「村に金貨を循環させているのよ。今晩荷物を運ぶのに、うちの荷車も必要でしょうし。修理してもらっているの」


「なるほどねぇ、アーニャは本物の領主様ってわけだ。ふうん。で、あんたはまたなんでここにいる?」


 ギデオンはグレイに聞いた。


「私がいてもいいだろ」

「いやぁ、他に仕事があるんじゃないのか?」

「今はこれが一番大事な仕事なんだっ!」


「二輪は大丈夫だったか?あんな過酷な旅は初めてだったろ?」

「そんなことないっ!」


 グレイはムキになってギデオンに反論していた。


「で、今夜の山はどのくらい?」


 私はシーブルックの娘だ。ギデオンに積荷の規模を確認しておきたかった。


「ブラック・ラーク号、ノルマンディからご帰還だ。全部運ぶ。遅れたら切り捨てるぜ」

「了解。ざっと40トン積みだね」


「その通り。ミス・フィンチの授業はそんなことまで教えてくれたのか?」

「まぁね」


 グレイは40トンと聞いて息を呑み、無言になった。


「50は積める船だがな」

「速さが命なんでしょ。積荷を欲張ったら重くなって遅くなる。捕まるわよ」

「その通り」


 私は髪の毛をきっちり引っ詰めなおした。

 ブラック・ラークはギデオン商会の主力船の1本マストで航海するカッター船。50トンまで積める。積荷の値打ちは数万ポンド。


「夜間荷揚げで、内陸のホーソーン◦マナー到着は夜の10時ぐらいを考えている」


 陸上げは分割搬入だ。往復回数、積裁量、人夫の配置を私は頭の中で弾いた。時間は足りる。


 ――いや、足りさせるのよ、キャロライン。それが私の仕事よ。


「わかったわ。万が一の場合に備えて、こちらは1時間前には集合しておくわ」



 陸上げも人夫リレーだ。倉庫内の荷解き組みがブライアコームの村人で、荷が解かれた荷台はまた戻る。



「9時集合でいい?」

「あぁ、夜闇に紛れてこっそりと行くぞ」


 私は、ミラーさんを見つけて集合時間を耳打ちした。


 その後、ミラーさんは何人かの職人に駆け寄り、こっそり耳打ちして回っていた。


 一人、二人と職人たちが姿を消した。


 今夜に備えて仮眠をとりに帰ったのだろう。



***


 夜9時。

 潮風の香りの残る積荷が、密かにブライトンからサセックスの丘陵地帯を超えてやってきた。

 松明もなし。声もない。あるのは、軋む車輪の音と、荒い息だ。真っ暗闇をごとごとやってきたのだ。


 ホーソーン・マナーの外門は開き、何十台もの荷車を迎え入れた。


 茶、ブランデー・ラム、レース、タバコ、砂糖、絹、香辛料、何万ポンドもの価値のある積荷が密かにホーソーン・マナーに運び込まれた。


 巨大倉庫の中は戦場だった。庭先は真っ暗なのに、倉庫の中だけは明かりがこうこうと照らされていた。


 松明の灯りの中で、村人も、海から運んできたギデオン商会の人夫たちも必死だった。


 整然と積荷が分けて陳列された後、ギデオンが高らかに宣言した。


「秘密の仲間よ、墓場までこの秘密を持っていくこったな。ここでのことを他で話したら命はないぞ」


 皆が頷いた。


「私たちはもう運命共同体よ」


 私は額の汗を拭き、にっこりと笑って言った。


 ミラーさんを始め、村人たちは初めて見る巨大な積荷を前に恐れをなした様子だった。


 私は密輸の調整役として暗躍し、この事業で富を築き、やがて合法化の方向に持っていくところまで計画している。ギデオンとは長い付き合いになりそうだと思った。


 ハロウゲイト子爵の追跡を交わしきれるのか。ハロウゲイトは財務府上級顧問であり、港湾・関税監督委員会統括責任者だ。


 ――2年後、ハロウゲイト子爵にギデオンがつかまる未来を私は見たわ。


 だが私は、それを変えるつもりだった。


 絶対にバレてはいけない秘密を共同する運命共同体が、こうしてブライアコームの村にできた。


 ホーソーン男爵家と、村と、ギデオン商会は、1765年の6月末にこうして結束した。


 

 この夜、私たちはもう後戻りできない場所へ足を踏み入れた。成功するしかなかった。


 ――失敗は許されない。


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