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35.ギデオンSide——運が向いてきた
土砂降りの雨のロンドン港を、二輪のチェイズが跳ねながら遠ざかって行く。
ギデオン・ヴオスは商会の石造りの軒先で、腕を組み、鼻で笑った。久々に愉快な気分だった。
「……どうやら、あのお高い身分のお方は本気らしいな」
母君の件をまだ嗅ぎ回っているようだ。
湾救済金横領事件――あれは帳簿一冊で済む話じゃない。根が深いからな。大変だろうな。
あの事件を身分を隠して探っているって噂は本当だったわけだ。
それなのに今日は、娘っ子一人のために王の馬まで動かして、夜通しロンドン中を駆けずり回ったとは。恐れいる話だぜ。
あげくに、この土砂降りの中、商会の二輪車でブライトンまで行くってんだから。
ギデオンは肩をすくめた。
「ありゃ、本気だな」
しばらく黙ったあと、港の灰色の空を見上げた。
「……ホーソーン男爵家にも、ようやく運が向いてきたってことかもしれないな」
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