28.野薔薇の棘——無いのは現金だ
昨晩、初めて入った書斎は、今や親しみを感じる場になった。
ホーソーン男爵は、本当に娘のアーニャを案じている良い父親だと分かったからだ。
「レッドワイク伯爵のことだが」
男爵は少し悲しそうな顔で私に話し始めた。
「彼はお前の親友と昨日結婚式を挙げたばかりだ。それなのに、お前にあのような態度を取るなどと許せないと思っている。老伯爵に申し入れをしようと思う」
「わかりました」
老伯爵も、今日のイーサンの騒ぎは苦々しく思ったはずだ。シーブルック家まで話が知らされるのも時間の問題だろう。
私の本題は別のところだった。
「お父様、家計簿、地代帳、借金帳の管理を私に手伝わせてください。あの庭にある倉庫ですが、私に任せてもらえないでしょうか」
ホーソーン男爵は人の良さそうな瞳を見開いた。
「シーブルックの家庭教師であったミス・フィンチから数字の扱いを習ったのです。お父様を手伝えますわ。紙の束の整理から始めますわ」
私は半分真実を言った。半分はミス・フィンチだろうが、残りの半分はシーブルックの父から特別に教えてもらっていた。
疲れたような声を男爵が出した。
「難しいぞ」
「構いません」
男爵はため息をついたが、私に帳簿一式を差し出し、まだ整理前の紙の束も渡してくれた。
資産があるのに現金が回っていないのが今の実情だ。
使用人の賃金の遅れ、粉・塩・薪などの買い入れが最小限である。借金はあるが、額は破滅的ではない。
地代収入があるのに、入金時期がバラバラだ。小作人は逃げていないが、支払いが遅れているし、そもそも現物払いが多すぎる。
古い借金が更新され続けているようだ。元本が減らずに利息だけ払い続けている可能性があった。また、売れるはずの資産が手つかずの状態であるのも気になった。
眠った資産があるのだ。
巨大倉庫のように。
私はそれを見つけよう。
ここは経営されていないのが最も致命的な問題で、今なら建て直せる可能性がある。一つ一つ整理して対処していこう。食は贅沢をしなければあるのだ。村と家の絆は生きている。菜園もある。無いのは現金だ。
「あぁっ」




