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私は結婚前から邪魔者だったのね!?お金以外は必要とされなかった妻でしたが、貧乏男爵家の再興が私の運命でした——そして嫁ぎ先は王家になりました  作者: 西野 歌夏
第2章:野薔薇の棘——ホーソーンの実

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22.野薔薇の棘——私は私に出会った

 ケント、コーンウォール、サセックスは密輸が非常に盛んだ。まずは密輸ルートの確保に注力し、その後、得た資金で屋敷や家屋を修繕しなければならないだろう。


 密輸は違法だ。卑しい行為だろう。

 でも、正しい結婚も、正しい愛も、私には縁がなかった。


 皆が寝静まったあと、アーニャの机に向かった。粗末な蝋燭の灯の下、紙を広げた。


 一、3年後の馬車事故を回避する。


 ニ、 私への殺意を消す。それには財政破綻したレッドワイク伯爵家がホーソーン男爵との婚姻を望むぐらいに、ホーソーン男爵を富ませる。


 三、不倫を止める。

 四、密輸を合法化して男爵家を救う。

 五、自分の体を取り戻す。


 羽ペンで書く手が止まった。


 これらの目的を果たすための計画を立てよう。3ヶ月単位で最初は立てた方がいいだろう。




 私がなくなるのは1768年9月3日曜日。おそらく午後14時30分頃。


 今は1765年6月22日土曜日の夜だ。結婚式の日だから覚えている。


 今年の秋までに、密輸ルートの掌握が必要だ。倉庫として提供し、利益を得よう。


 今年の冬までに、領地改革だ。村と屋敷の改革に着手しよう。薪の管理、領民への食料配分、領民の教育補助だ。


 来年の春までに、密輸の規模を拡大しよう。

 来年の夏までに、村の雇用を創出しよう。

 来年の秋までに、 商業免許状を発行してもらって、ホーソーン家の復興を確定させよう。密輸の合法化だ。

 

 再来年の秋までに、完全にシーブルック家の資産がなくても、レッドワイク伯爵家を助けられる次元まで、ホーソーン男爵家の資金繰りを改善しよう。


 1768年9月3日。今度は決して殺されない。


 今から38ヶ月後、ホーソーン男爵家は富を手にし、財政基盤を盤石のものにするのだ。 


 ――私は裏切られた花嫁だわ。

 初めて自分の力を試そうと思った。


 私はこういったことを書いた紙をどこにしまうべきか悩み、再びアーニャの部屋のどこに隠すべきか、場所を探し始めてしまった。古いが、本革の小さな書簡入れがあった。しかし、そこに隠すのは躊躇われた。


 白い山羊革の手袋を見つけた。これも、ブライアコームとアーニャと一緒に買い求めたものだった。私はその手袋の中に、折り畳んだ紙をしまった。



 その引き出しの奥に、マリーゴールドの金糸刺繍の小袋を見つけた。

 

 これは何……?

 ――私がイーサンにあげたものではなかった?


 職人に作ってもらった、婚約の時の贈り物だ。裏地が青い絹で縫わせた絹袋だ。マリーゴールドの刺繍の図案は私がしたのだから、間違いないだろう。


 私の記憶の中では、あの時、確かにイーサンは同じような絹袋をポケットに入れていた。

 ――いや?

 ――ちょっと違った?

 ――違和感を覚えた気がする……。

 

 アーニャの部屋の引き出しに私の贈ったマリーゴールドの絹袋があるのは変だ。イーサンがあの時持っていたのは、アーニャが刺繍した絹袋?


 私が贈った絹袋であるが、隅に刺してあったはずのCの文字の部分だけが糸が解かれた跡があった。Cが刺繍されていた痕跡は残っていたが、糸は解かれていた。


 私は手の込んだ2人の仕業に、ゾッとした。


 ーー今度は絶対に負けないわ。


 私は決意を新たに、アーニャのベッドで眠りについた。たくさん寝なければ、明日の教会での対峙に負けるからだ。


 あれこれ考えているうちに、気を失うように眠った。



 ***



 翌朝、レースから入る朝日が眩しすぎて、私は自然と目を覚ました。アーニャのベッドは硬かったが、3年前に戻って以来始めて、長時間アーニャでいたことになる。朝目が覚めても、私はアーニャだった。


仕事の分担だが、長女の私がブリジットと一緒に食事の段取りをし、メイドへの指示を出す。次女のリディアが縫い物やリネン管理が得意で、三女のエリスは鶏の世話を主にしていたようだ。最近、野菜の下処理も手伝ってくれている。


 私が担うことになる役割は、パン生地をこねる、野菜を刻む、皿洗い、暖炉の灰掃除、洗濯の手伝いなどだ。アーニャの日記から、大体判断した。


 いずれもやったことがまるでない。


 日曜日は、昨日作ったポタージュを暖炉の火で温めて、冷たいパンと一緒に食べて教会に行くのだ。


 今日の朝食は、ブリジットだけでなんとかできるということになるとわかり、私は朝からほっとしていた。


 私は庭でイーサンに会っていた時にきていたドレスを教会に着ていくことにした。3着しかないのだから、仕方があるまい。



 淡いクリーム色モスリンのローブ・アングレーズに身を包んだエリスは、白いリネンの手袋を手にしていた。質素だが、少女らしいキチンと感のある着こなしだ。リディアの袖口には、擦り切れを隠すように同色の細い布が当てられていた。目立たぬよう縫われている。アーニャの針仕事だろう。


 エリスの背中の釦だけ新しい。足りぬ数を、どこか別の古着から外して縫い付けたのだろう。



 今まで、私は新しいものを買えば済むと思っていた。ホーソーン・マナーでは愛情が針と糸の形をしているようだ。


 日曜礼拝に向かう朝、朝露の庭を、クリーム色のドレス姿のリディアと、銀のような光沢を感じさせる薄いグレーのドレス姿のエリスが並んで歩いた。洗い立ての布が陽を受け、貧しささえ慎ましい誇りに見えた。


 日曜礼拝は欠かせない。地域貴族は出席義務に近いと聞くほどだ。レッドワイク家に嫁いで3年の間に、ブライアコーム教会には専用の家族席があり、その定められた席に座らなければならないことを学んでいた。私はホーソーン男爵家の参列式を知っていたため、自然にその席につくことができた。


 礼拝後に村人・地主、牧師が挨拶をしあう習慣がある。


 そこで、私は「私に」出会った。




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