ヘザーの弔い——1768年9月(エドワードSide)
灰色の空。
軽く湿ったサセックスの空気。
遠くで礼拝堂の鐘が低く鳴る。
9月の陽光が照らす中、黒い衣装の人々が集まる。
静寂が訪れたブライアコームの村は、方々から続々訪れる馬車を迎えていた。
私はキャロライン・レッドワイク伯爵夫人の葬儀のために、ブライアコームの教会を訪れていた。リッチモンド・ロッジから早馬を飛ばしてようやく間に合ったのだ。
喪服の布が擦れる音だけが世界を満たす。
レッドワイク伯爵家の家令が教会入り口付近で、青ざめたイーサン・レッドワイク伯爵の背後に控えているのが見えた。驚いたことに、その隣にサー・エドマンド・ハロウゲイト子爵の姿が見えて私は一瞬怯んだ。
ハロウゲイト子爵とレッドワイク伯爵家とは、どういう繋がりなのか分からなかった。湾救済金横領疑惑事件を調べている私は、顔を顰めた。ハロウゲイト大臣の果たした役割に疑念を持っていからだ。
青ざめたイーサン・レッドワイク伯爵が先頭の運び手となり、私の目の前に棺が運ばれてきた。
――初恋の人は帰らぬ人となってしまった。
偶然にもメイウェアのレッドワイク・タウンハウスの前での馬車事故を目撃してしまった私は、胸が裂けるような痛みに貫かれた。
私の初恋の人は、私ではない男の妻になり、結婚生活は3年で終焉を迎えた。
――十二の夏、野薔薇の垣根越しに笑った少女。
――貴女は幸せだったのですか?
私は涙を必死に堪えた。私は人々の視線に耐える訓練を受けている。
――耐えるのだ。ここで激しく泣き崩れてはおかしい。
この場の誰一人、私が彼女を愛していたことを知らない。
この国の王子がレッドワイク伯爵夫人の葬儀でみっともなく泣いては不自然だ。
私の涙は――隠れて流すべきものだ。王子の涙は特別なものだから。
代わりに、ブロンドの髪を綺麗に整えて、青ざめた顔で棺を見つめるイーサン・レッドワイクの顔に視線を向けた。棺を運んで行く彼の顔をじっと観察した。そして、心の中で彼に尋ねた。
――イーサン?君が彼女を殺したわけではないよな?
1768年9月5日のブライアコームの村の教会の葬儀は、一生忘れられない記憶になりそうだ。
私の初恋は、誰にも知られぬまま葬られた。




