17.メドウスイートの白——ホーソーン・マナーへ
白磁のような肌、蜂蜜色のハニーブロンドの髪、アーモンド形の薄い緑色の瞳、首筋が長く、優雅に歩く姿勢。鏡を見ずとも、今の私はアーニャ◦ホーソーンだった。
親友の身体になった私は、グレイを目の前に落ち込んでいた。
ホーソーン男爵とアーニャの妹2人には、先に披露宴から帰ってもらった。私は親友の結婚式だからと、もう少し残ると言って納得してもらった。
目的はグレイと話すことだったけれども。
レッドワイク伯爵家とホーソーン男爵家が見守る小さな共同体のような村は、ブライアコームの村と呼ばれていた。
少女期の幸せな思い出がたくさんある村だ。イーサンとアーニャと私の3人の間には、この一帯で過ごした楽しく美しい思い出があった。
ブライアコームにはホブズアンドサンズというパン屋があった。その窯から漂う焼きたてのパンの香りは幸せの香りだった。パンを買って、よくレッドワイクチェイスの森で一緒に食べたものだ。
私とグレイは、ホブズアンドサンズでパンを買い、歩いてホーソーン・マナーまで歩いていた。村中がレッドワイク伯爵家とシーブルック家の婚姻を祝福しており、私たちは結婚式帰りの若者として、結婚式での花嫁の衣装やイーサンの姿について、見てきたことを話すよう求められた。
アーニャ・ホーソーンも私もこの村での思い出はたくさんある。アーニャの姿で歩き回ることは、村人には違和感のないことだった。
だが、私が一緒に歩くエドワード・グレイについて、皆の興味が集中するのも理解していた。レディが見知らぬ男性と仲良く歩くのは、よからぬ噂を招く。
私はキャロラインの幼馴染だとグレイを村人に紹介した。ブライトンの港で、書記の仕事をしているのだと。
「納屋活用の話を持ってきた方よ」と紹介すると、村人たちはグレイがホーソーン男爵家に吉報をもたらす者として、歓迎してくれた。
「今月も2回ほど、その話を持ってホーソーン男爵を訪ねたんですよ」
「ほーっ、いい話だな」
「ほんとね」
村人たちはグレイをにこにこして受け入れてくれた。
胸元、首筋の白さ、手の細さ、今の時代の美の基準を全てクリアしている美貌を持つのがアーニャだ。
没落したホーソーン男爵家の娘であるがために、レッドワイク伯爵家の男子との結婚を認められなかった彼女。
素朴さと華やかさが共存していながら、恋焦がれている人を私に取られてしまったアーニャ。
でも、彼女は諦めきれず、イーサンとアーニャの恋は進展して愛に変わった。
結婚に浮かれる私に隠れて、アーニャとイーサンは逢瀬を繰り返し、結婚式直前には一線を越えた。私が死ぬ3年も前から2人は逢瀬を重ねていた。
レッドワイク伯爵家があれほど困窮していなければ、イーサンはアーニャを妻にしたはずだ。
ホーソーン男爵家が困窮していなければ、アーニャはイーサンを夫にできたはずだ。
それでもアーニャならば、別の選択肢があったはずだ。
アーニャに求婚した若者たちは少なくなかった。
比較的裕福な資産家の若者たちがアーニャに夢中だった。彼女に夢中の他の若い殿方との縁談について、私も何度か勧めた。だが、彼女は微笑んで首を横に振った。
イーサンは家のために愛のない資産家の娘との結婚を手に入れ、同時に最愛のアーニャの全てを手に入れていたことになる。
アーニャが家のためを考えるならば、裕福な資産家との婚姻を考えるべきだろう。ただ、アーニャに気持ちは理解できた。愛してもいない人の元に嫁ぐのは、私でも耐えられないから。
私は彼女の気持ちを推し量ることがまるでできていなかったのだ。アーニャの視線で世界を初めて見て、知ってしまった事実に、私は心が押しつぶされそうだった。




