13.勿忘草の告白 フォーゲット・ミー・ノット(3)
「もうひとつ、聞いてくれるかしら」
グレイに話したい事はまだあった。
私は肩が震えてきて、涙が再び溢れ始めた。
――グレイにこの事も聞いてほしい……。
「変な事を話すと思うのは百も承知だけれど、あのね……私は3年後を知っているの。イーサンと結婚した3年間、私は一度も愛されなかったの。つまり、その……イーサンは私に一度も触れなかったという意味よ」
私は真っ赤になった。
男女の話を、しかも自分に関する話を、昔から知っているとはいえ、あまりよくは知らない男性に話すのだ。
グレイはハッとした表情で私を心配そうに見つめた。
――あぁ、私が頭がおかしくなったと思ったわよね……。
「頭がおかしくなったと思うのもわかるわ。だって、突拍子もない話だから。3年後まで生きて、3年後の9月に初めてアーニャとイーサンの裏切りに気づいたの。メイウェアにあるレッドワイク・タウンハウスで私は2人が情事を重ねていることに気づいたのよ。その後にね……」
私はここで大きく深呼吸をした。
――私が経験した事をすべてこの人に話してしまいたい。
――心の重荷をおろしたい。
「その後に?」
グレイは真剣な顔で私を見ていた。
私はこの人なら聞いてくれると思ってしまった。
「その直後に、馬車でメイウェアの通りに出たの。ショックで頭が痛くて気分が悪かったわ。ぬかるみに足を取られて転んだのよ。そしたら」
私は息を吐いた。
「そこにレッドワイク伯爵家の馬車が、倒れた私に突進してきたわ。馬車に轢かれて私は死んだのよ」
グレイは無言だ。
目をしばたいて、どこか一点を見つめている。
――そうよね、信じられない話だわよね。
「あの時、私が乗ってきたレッドワイクの馬車の側にはメイドのネルが待っていたの。通りの反対側にいたわ。でも、レッドワイク・タウンハウス側に、もう一つのレッドワイクの馬車が突進してきた」
私は息を整えた。グレイはまだ無言だ。
「つまり、夫の馬車が私に突進してきた事になるわ。夫は3年間アーニャと情事を重ね続けていた。そして、シーブルック家の資産を自分のものにするために、私を殺したのよ」
馬車の中にはしばらく沈黙が訪れた。
グレイは呆然とした様子で、私を見つめた。
――私を哀れに思ったでしょう。
グレイは頭を振り、短く息を漏らした。彼が深く悲しんでしまった様子が、私に分かった。
「君が殺されなくてはならない理由は一つもない!」
思わず感情をあらわにしたグレイに、私はとても驚いた。
――私のことで、私と同じに怒ってくれる人がいた……。
そのことが私の心のうちを温めた。
冷え切って、世界が真っ暗で、生きている価値などないと思っていた私の心に、ほんの少しだけ温かさが戻った。
「君の話を私は信じるよ。結婚は中止だ」
私は思わず顔に笑みが戻るのを感じた。さっきまで泣き崩れていたのに、グレイの人柄に触れて、私は心強さまで感じた。
――あまりよくは知らない人なのに……。
「まだあるの。話はここがスタートで、どうやって今に至るかまで聞いて欲しいの。いい?」




