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私は結婚前から邪魔者だったのね!?お金以外は必要とされなかった妻でしたが、貧乏男爵家の再興が私の運命でした——そして嫁ぎ先は王家になりました  作者: 西野 歌夏
第1章:深紅の季節——亡霊の春

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09.ハニーサックルの誘惑と執着(1)

 いつの間にか、レッドワイク・チェイスの真ん中に建つ狩猟用ロッジが見えてきた。私はフラフラとした足取りでロッジの壁に手をついた。頭が割れそうに痛く、深呼吸をして目を瞑った。本当に倒れてしまいそうだ。ほんの少しだけここで休ませて欲しい。



*** 

「アーニャ」


 切羽詰まったようなイーサンの声で目が覚めた。私はレッドワイク・チェイスーーつまり狩猟用森のロッジの壁に寄りかかっていた。壁越しの向こうから、声がするのだ。



 スイカズラの甘い香りはまだ初夏の前の淡い香りで、シダが海のように生い茂る夏の前に見えた。風に揺れるブルーベールの花。


 7月になるとここには小さな黄色の星形の花が咲き誇るーセント・ジョンズ・ワートの真夏の黄色い花が咲くはずだ。その花が見えない今は、まだ5月。足元にはスズランの花弁が落ちていた。私の前に誰かがここにやってきたらしい。


 足元を見て、私は気づいた。高価な革靴。いつもの蝋燭の火を受けても皺一つできずに光を散らす上質シルク・タフタのドレス生地が見える。私は裏地をそっと触った。滑らかなシルクオーガンジー。裾には職人が施した細く金糸のコード刺繍がある。


――つまり、私は今、キャロライン・シーブルックだわ……!


 ――元の姿に戻ったのね。


 ――でも、今はいつの5月かしら?

 

 3年後の未来で私は死んだ。だとすれば、過去の5月のいつかだ。


 そっと窓に近づき、ロッジの寝室の窓が開いていることに気づいた。



 目の前にイーサンの姿があった。髪が乱れていて、シャツが乱れている。ベッドに横たわっている人物が見えた。アーニャだ。


 あぁ……。



 ――ここでアーニャとイーサンは何をしているのだろう?

 いえ、明白だわ……。

 

 目を瞬く。私の目の前には、5月のブルーベールの花が見えた。


 息を殺した。足が動かない。ここから逃げなければと思うのに、目が離せなかった。風に揺れるブルーベルの花弁が私の靴先に触れた。美しい花だと、まるで場違いなことを思った。


 レッドワイク伯爵家の森の奥にある、狩猟する貴族たちの休憩用に使われる狩猟用ロッジの中に2人はいた。今、ロッジの中の簡易ベッドの上に一緒にいる2人に動揺して、私は逃げたくなった。ここは王族のような高位貴族が狩に来賓した時のための家だ。彼らをもてなすための小さな家の中で、私の親友と夫がいる。


 あのベッドは、王族を迎えるために整えられたものだった。

 

 お金もないのに、伯爵家はこうした森だけは持っていた。


「アーニャ、ここでやめよう。やっぱりこんなことはいけないよ。君を大切にしたい」


 イーサンは欲望に潤んだ瞳で、でも切なそうな表情でアーニャを見つめていた。

 

「こんなことって?来月、あなたは私の親友の夫になるのよ。来月、あなたが親友と結婚式を挙げるのにどうして耐えられると思うの?」

 

 ――来月結婚式!?

 ――今は結婚前。つまり3年前の5月だわ……。


 私とイーサンは結婚生活の3年間、一度も関係を持ったことがない。一度もだ。その理由がはっきりと分かった。


 結婚前から、2人は完全に私を裏切っていたのだ。


 アーニャはそばにあったシーツを手繰り寄せてドレスを着たままの体を隠した。


 アーニャが少し体を起こしてイーサンの様子をじっと見つめている。

 

 ――分かったわ。ここでずっと二人は逢瀬を重ねていたのね!

 

 私は自分の中に凄まじい怒りとどす黒い感情が込み上げてくるのを感じた。黒くて黒くて醜い何かが、うなりをあげて私を圧倒してきて、私は前のめりになって大きく息をはいた。私のものではないかのような何かが私の感情を支配していた。


 アーニャがイーサンに懇願した。


「やめないで。私は構わないわ。あなたに全てを捧げると決めたんですもの。いいわよ。今日は続けていいわ。」


 アーニャは上目遣いでイーサンに言った。そして、ベッドから立ち上がってイーサンに寄り添った。

 

「ダメだ。今なら引き返せる。今のままで十分だ。時々こうしてここでまた会おう。そしたら僕らはまだ大丈夫だ。狩猟は男の趣味だ。猟に行くとキャロラインに言えば、キャロラインは全く疑わない。」

 

 そう勝手な言い分を言いかけていたイーサンは、アーニャが全てを脱ぎ去ったのを見て息を呑んだ。


 私は、夫のイーサンが、ずっと私の愛情を利用していたのだと悟った。私の手は震えていた。


 アーニャはイーサンに歩み寄り、イーサンに自ら情熱的なキスをした。


 イーサンがアーニャの名を囁く声は、結婚式の夜に、私に向けられることは決してなかった声だ。



***


 2人の理性はどこかに行ってしまったようだ。



「……止められないよ……止められない……君を失うくらいなら」



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