2.ハオルチア
かたん、ことん。
振動を振り払って、私は目を開けた。
窓からさす月明かりが、眠る白いドレスの腰を撫でる。
床に、窓に、狂い咲くスノードロップの中。
肌に残る痕が、紫色に色を変える。
星の散る紫金の空が、落ちてくる。
目を閉じる金髪は、今だけは私とお揃い。
「1084回目の、幸せな夜ね。ハニー」
憂いの溶けたような沈黙に、声を混ぜる。
「違ったわ。2934回目、だったかしら」
閉じられた瞼を、なぞる。
なぞって、こじ開ける。
「夜は好きよ。あなたがいないから」
重なった唇を、引きはがす。
「いいえ、嫌いよ。あなた、いないんだもの」
歯列を、撫ぜる。
「今夜は、何をしようかしら」
柔らかな、内側。
「何もしたくなんかないわ」
かたん、ことん。
おもちゃのような軽い音に混じって、違う音が聞こえ始める。
ピッ、ピッ、ピッ――
耳障りな、機械の声。
コォー……コォー……
規則的な、風のさやめき。
目を閉じる。
聞きたくない。
身を、隣に横たえる。
はちみつ色の髪を、胸に抱く。
「ねえハニー、どこかに、逃げてしまいましょ」
何も、見えないように。
何も、聞こえないように。
「いやだわ。そんなの出来っこないわ」
冷たい床の上。
体温のないハニーの体を、あたためる。
「ねえハニー、目を開けて」
答えの分かりきった、問い。
「ねえ、ねえハニー」
ピッ、ピッ、ピッ――
コォー……コォー……
「ハニー、ねえ」
かたん、ことん。
「死んでよ」
細い首に手をかける。
「死にましょうよ。一緒に」
指を、沈めて――
「ねえ、ハニー」
白い、レースの死装束。
こぼれ、落ちるは、ハオルチア――




