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執事一家の次男に転生したので、全力でお姫様に尽くしたいと思います。  作者: 比津磁界


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第15話:【憩い】お昼休みと、初めての宿

視察旅行の初日、黄金の馬車は順調に王都を離れ、のどかな街道へと進みます。


今回の見どころは、アルフレッドと先輩メイド・ミナの、プロフェッショナルかつ微笑ましい「主従サポート連携」です。

太陽が天頂へと昇り、草原を渡る風が心地よい熱を帯び始めた頃。騎士団長代理のカイルが右手を挙げ、馬車を停める合図を送った。


「アルフレッド殿、このあたりが一番見晴らしが良い。川のせせらぎも聞こえるし、休憩には最適だろう」


「ええ、ありがとうございます、カイル殿。皆さんもお疲れでしょう、ゆっくり休んでください」


アルフレッドが馬車の扉を開けると、中から少し眠そうに目をこすりながら、リリアーヌが降りてきた。彼女の「勉強用の服」は、座りっぱなしの馬車移動でも皺になりにくく、それでいて凛とした気品を保っている。


「わあ……綺麗! 街の外がこんなに広いなんて、知らなかったわ」


リリーが瞳を輝かせて草原を見渡す。その背後から、後続の馬車を飛び降りたミナが駆け寄ってきた。


「はいはい! 感動するのは後にして、まずは準備よ、アル君! ぼさっとしてないで、あっちの大きな木の下に敷物を広げてちょうだい!」


「了解しました、ミナさん。日当たりと風通しを考えると、あちらが最適ですね」


「分かってるじゃない。私はお茶と軽食の準備をするから、貴方はテーブルの用意をお願いね。いい、リリアーヌ様をお待たせしちゃダメよ!」


「心得ておりますよ、先輩」


アルフレッドは苦笑しながら、ミナの指示に従う。彼にとってミナは、王宮での立ち振る舞いや、細かな作法の「いろは」を叩き込んでくれた師匠の一人だ。彼がどれほど魔法で無双できようとも、この「メイドの職人魂」には敬意を払っている。


アルフレッドが【収納魔法】の空間を開くと、そこから周囲の騎士たちが目を剥くような光景が繰り広げられた。

 折りたたみ式の小さなテーブル。そして、王宮の銀食器一式と、冷めないように厳重に魔法保存された料理の数々だ。


「……アルフレッド殿。貴殿の『収納』には、お城の厨房がそのまま入っているのか?」


カイルが呆れたように呟く。アルフレッドは涼しい顔で、クリスタルのグラスに冷えた果実水を注いだ。


「執事の準備に『やりすぎ』という言葉はありませんよ、カイル殿。ミナさん、メインのサンドイッチとスープの用意ができました」


「早いわね。さすがは私の自慢の後輩だわ。さあ、リリアーヌ様、お座りください。今日は特別に、お外でのランチです!」





昼食を終え、再び街道を東へと進む。

 ミナは、後続の馬車へと戻っていった。再び、黄金の馬車の中にはアルフレッドとリリーの二人きりになる。


満腹感と、馬車の規則正しい揺れ。そして、朝からの緊張の反動だろうか。リリーが何度も大きなあくびを噛み殺しているのを、アルフレッドは見逃さなかった。


「リリー。無理をして起きていなくても大丈夫ですよ」


アルフレッドがそっと声をかけると、リリーは顔を赤らめて首を振った。


「だって……アルとこうしてお話しできるの、楽しみにしてたんだもの。寝ちゃうなんて、もったいないわ」


「そのお気持ちだけで、私は十分に満たされていますよ。ですが、初日から根を詰めては、目的地に着く前に倒れてしまいます」


アルフレッドはリリーの隣に座り直し、自分の膝を軽く叩いた。


「さあ、こちらへ。少しだけ、目を閉じましょう」


「……え、でも……」


「誰も見ていませんよ。リリー」


名前を呼ばれ、リリーの抵抗はあっけなく崩れた。彼女は恐る恐る、アルフレッドの膝の上に頭を乗せる。アルフレッドの手が、彼女の柔らかな髪を優しく撫でた。


「……アルの手、すごく落ち着くわ」


「おやすみなさい、リリー。目覚める頃には、今日の宿に着いていますよ」


リリーは満足そうに微笑むと、すぐに規則正しい寝息を立て始めた。

 アルフレッドは彼女の寝顔を慈しむように見つめながら、影の中に視線を落とす。今のところ、三柱の守護者たちを出す必要はなさそうだ。静かな旅の始まりに、彼は安堵のため息をついた。


夕闇が迫り、空が紫から深い藍色へと染まり始めた頃。馬車は第一の目的地、中継地点の小さな村へと到着した。村長をはじめとする領民たちが、松明を持って王女を歓迎する。


リリーが公務としての挨拶を済ませる間、アルフレッドはミナと共に、村で一番立派だという宿屋へと足を踏み入れた。


「アル君、ぼさっとしない! 二階の部屋、隅から隅まで見るわよ。窓の建付けが甘くないか、隙間風が吹いてないか……。お姫様が風邪でも引いたら、私たちの責任なんだからね!」


ミナが鋭い視線で部屋を見渡す。アルフレッドも頷き、すぐに動き出した。


「分かってますよ、ミナさん。私は魔法で壁の防音と断熱を補強しておきます。」


「助かるわ。私は寝具の用意をするから、アル君は貴方の【収納】からお城のシーツと枕を出して。やっぱり使い慣れたものじゃないと、リリアーヌ様はゆっくり休めないものね」


二人の連携は、まさに神速だった。村の素朴な寝室は、数分もしないうちに王宮の離宮に近い快適さを備えた空間へと作り替えられていった。


一段落したところで、階下から村長が控えめに声をかけてきた。


「あの……お口に合うか分かりませんが、村の特産品を使った夕食の準備ができております。猪のシチューと、焼きたての麦パンですだ」


「ありがとうございます。リリアーヌ様も、土地の味を楽しみにされておりました」


アルフレッドは丁寧に応じつつ、リリーが席に着く前に、ミナと共に食堂へと向かった。


「アル君、分かってるわね?」


「ええ。どれほど歓迎されていても、これだけは執事の義務ですから」


アルフレッドは運ばれてきた料理を前に、さりげなく懐から純銀のさじを取り出した。魔法で視覚を強化し、湯気の中に不自然な変色や魔力の歪みがないかを走査する。

 そして、誰にも気づかれぬ速さで全ての皿から一口ずつを、自身の舌へと運んだ。


「……毒、異物、共に検知されません。味の方も、素朴ですが非常に滋味深い。リリー様の好みに合うでしょう」


「よし、合格ね。私もお茶の方をチェックしたわ。……さあ、リリアーヌ様をお呼びしましょう」


その後始まった夕食会。リリーは村の料理を「美味しいわ!」と心から楽しみ、村長たちはその笑顔に感激して涙ぐんでいた。アルフレッドはその様子を背後で見守っていた。


(……一日の終わりだ。リリーも疲れているだろう。今夜はゆっくり休ませてあげたいが……)


窓の外、夜の静寂が村を包み込む。

 アルフレッドは完璧な執事の微笑みを湛えて、食後のティーカップをリリーの前に置いた。

第15話、最後までお読みいただきありがとうございました!

旅の初日、お昼のピクニックから宿泊地への到着まで。アルフレッドとミナさんの「プロのメイド・執事連携」を楽しんでいただけたでしょうか。

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