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25.またいつか、会えるだろうか

 ここまで、一切口を挿まず成り行きを見守っていたソラが、真面目な顔をして、静かに話し始めた。


「ねえ、ティアナ……」


「どうしたの?」


「……私では理解が追い付かないんだけど……結局、陛下が悪い奴、ってこと?」


「……」

「……」


 ソラの間抜けな言葉がしっかり聞こえていたジェルドは、一気に気が抜けるのを感じたが、あえてソラに突っ込むことはせず、黙っていた。


「ソラ、あなたってほんと昔からおつむが弱いのよね。そうよ、あいつが全て画策したことなんですって」


「そう……それで、どう見てもジェルド殿下を蔑む発言してるよね」


「そうね」


「私、すごく腹を立てているんだけど」


「そうね。ソラ、やっちゃえば?」


「わかった!!」


 勢いよく走りだすソラ。そして、その渾身の右ストレートは、国王の顔面にクリーンヒットした。


「ぐがぁああっ」


 派手に吹っ飛ぶ国王、ローダン。派手に宙を舞うと、そのまま壁に激突して、逆さまのまま動かなくなった。


「失礼。ジェルド様をお守りするのが、私の役目ですから」




 王の間はなかなかにカオスだった。


 数メートル吹っ飛んで気絶している国王と、拳を握りしめてきりりとした表情で仁王立ちしているソラ。ついでに、キラキラ発光しまくっている。ジェルドとシリウスはあっけにとられた顔をしている。


 しばらくすると、何かに気付いたソラが慌てだした。


「あの……国王を殴り飛ばすのは初めてで……加減を間違っちゃったでしょうか?」


「ふふっ」


 突然、ティアナが噴き出す。


「ふふふふふ」

「はははは」


 つられてシリウスも笑いだす。力が抜けたように膝をついていたジェルドも、我に返るとふっと息を吐いた。


「あー、すっきりした! 全部国王の思惑通りだったってことね。……そういえば、ジェルド様が呪いを受けた時、私が辺境に追いやられたのも、聖女の力が邪魔だったからなのね」


「どこまでが……計算だったのか。父上は権力に怯え、王座を守ることに精一杯でどんどん孤独になっていった、ある意味可哀想な人間なのかもな……」


「何もかも……終わった……のか? 俺は……生きていて、ソラも……近くに、いて」



 騒ぎを聞きつけた城の者が集まって来ても、しばらく4人ははその場から動けずにいた。ただでさえ大騒ぎなのに、今度は国王が倒れているとなると、城の者達ももうなにを優先していいか分からず、大混乱しているようだ。シリウスが采配をとっている。

 何もできず、ぼんやりと立っていたソラの前には、気付くとジェルドが近付いていた。


「ソラ……やっぱり俺の目に狂いはなかった。お前が輝きの聖女だっただろ?」


「え? まあ、なんか光っちゃってるので、そうかもしれないんですが……本当についさっきまで気付かなかったんですよ」


 ジェルドにやさしく両手を握られると、そのまま彼の口元に寄せられる。急にジェルドの雰囲気が変わり、ソラはあたふたした。

「……腕、ごめん。痛かったよな」


 一瞬何のことか分からなかったソラだったが、昨晩ジェルドの拘束から逃げ出そうとして負った傷のことだと理解した。ほんの数時間前のことなのに、ひどく前の出来事のように感じる。それだけ、いろいろな事件が起こりすぎた。


「あ、ああ、手当もしたので、もう大丈夫です」


「次に拘束するときには、痛くないように工夫しておくから」


「あの、再び拘束する予定で行動するのはちょっと……」


「ソラ、……寂しかった」


「で、んか」


「会えない間、ソラの事ばっかり、考えてた。会いたくて、我慢できなかった」


「は、い」


「どんなときも、ソラが助けてくれた。導いてくれた」


「え……???」


「ソラ、愛している。ずっと、離れないで。俺のそばにいて」


「ふぁっ」


「何? さっきから変な音声ばっかり発してるけど、ちゃんと聞いてる?」


「ちょっと……その」


「何だって?」


「その……気まずい、です」


 いたたまれないソラが顔を伏せる。ここまでのやりとり、いつの間にやらティアナとシリウスにがっつりと見られているので。何なら、部屋にいる皆が聞き耳を立てているような気がしてならない。


「どうぞ、お幸せにね」


「ジェルド、ほどほどにな」


 そう言った二人の目は生暖かい。



   ◇   ◇   ◇



 それは今から6年前のこと。


 呪いをその身に受け、熱にうなされながら、何もできないジェルドは悔しさと怒りに震えていた。数日経つと、だんだんと意識が遠のき、苦しさ意外に何も考えられなくなってきた。


 ほんの少しだけ意識が浮上したときには、近くで誰かが話す声が聞こえた。


「……むり、で……これ…は」

「……そんな、ジェルド様が助かる……はもうないと……の」


 おそらく、自分はもう長くはないのだろう。ジェルドはすっかり諦めていた。


 それからどれだけの時間が経ったのか。いっそ、ひと思いに楽にしてほしい……そう思い続けていると……


 突然、頭に衝撃が走った。


「いたっ」


 (あ、声が出た)


 思わぬ痛みと状況に混乱していると、ジェルドの目の前が昼間のように明るくなった。


「ご、ごめんなさい!」


 久しぶりに視界に物を映す。目の前には、自分を覗き込む顔があり、それが女の子だと理解するには、少し時間がかかった。ダークブロンドの髪に、深い海のような青い瞳。そして、体の周りがキラキラと輝いている。美しい、と思った。これは、天使なんだろう。


「……ああ、俺はついに死んだのか。こんなに体が楽なのも納得がいくな」


「え? あなた死んでるんですか、私と会話してるのに?」


 驚いた様子の少女は、目を見開いた。


「は? 生きて、いる?……まさか、あの呪いが消えた?」


 そこで、周囲の状況を見渡せるほどになったジェルドは、さらに驚く。


「呪い……何してるの」


「ノロイ? 何? この蛇の名前ですか? あなたの体に巻き付いてたから、危ないなーと思ってちょっとしめあげてたところなんですよ」


 この子どもが!? あまりの驚きで上半身を起こすと、その細い腕で、黒い大蛇をヘッドロックしている異様な光景が目に入る。


「蛇飼ってもいいですけど、安全に気をつけないと命が危ないですよー。私も、猛獣を飼う時とか細心の注意を払ってますもん」


「え? は? 何? 天使じゃなくて地獄の使者?」


 細心の注意を払ってまで猛獣を飼っている謎の少女が蛇と格闘する意味不明の状況に、ジェルドは完全に混乱していた。


「ああっ、もう、うねうねしないでよ! あとちょっとで大人しくできそうなのにっ」


 そこで、部屋の外から人の駆けつける足音が聞こえてきた。

「ジェルド様! どうかされましたか!?」


「あっ、やば、勝手に城の中探検してたの、見つかっちゃう!……とりあえず大人しくはさせましたし、あなたも命に別状はなさそうだし、良かった……ですね?」


 大蛇を地面に叩きつけ、慌てて部屋から出ようとする少女に、ジェルドは急いで話しかけた。


「待って! 君は?」


 引き留めようとするも、大勢の足音が近づくと同時に、その少女は姿を消していた。


 


 その後、自分を助けた少女は聖女なのではないかと教えられた。年の頃も、見た目も、ジェルドの話と一致していたので、どうやら自分を助けてくれた少々変わった女の子は、『聖女』で間違いないらしい。

ジェルドが元気を取り戻すとすぐに、辺境伯の地へ旅立ってしまったようで、直接会えはしなかった。またいつか、会えるだろうか。……会えたら、今度はもっとちゃんと話がしたいな。





 

 6年前のことを思い出して、ジェルドはぷっと噴き出した。小さい時から、変わらず、ソラはソラなんだと思うと、可笑しいやら、愛しいやら——胸が温かくなる。ずっと前から、ソラは光り輝いて、導いてくれていたんだ。それが分かると、ジェルドはもう、何にも負ける気はしなかった。

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