22.拘束運が悪すぎる
ジェルドに掛けられていた呪いは消えたようだ。体に刻まれた呪いの跡もきれいになくなっている。……それなのに、いつまでもジェルドの目が覚めない。
ティアナが結界を解くと、バタバタとたくさんの人が入ってきた。
「おお……! ま、まさか呪いが消えているとは……! ジェルド様のことは…こちらで預かりましょう」
「大魔官様!?」
大勢の中にはメイヴェンもいて、慌てたように近寄ってくる。
ティアナが顔を歪め、ジェルドに近寄ろうとするメイヴェンの前に立ち塞がった。
「……大魔官メイヴェン、どうしてここに入って来れたの? 私はあなたの出入りを禁じたはずよ」
「どういうこと?」
ソラは理解が追い付かず、二人の顔を交互に見た。
「へ、陛下の…許可をいただいたのですよ。それにしても…聖女様は私をジェルド様に近づけないように画策されるとは……ひどいです」
「ティアナ……?」
「ソラ、大魔官メイヴェンはジェルド殿下の魔力を利用しようとしている黒幕なのよ!」
「えっ!?」
いつのまにか、大勢の魔法使いはソラとティアナを取り囲んでいた。
◇ ◇ ◇
以前、ソラも訪れたことのある、宮廷魔術官の研究所。今はメイヴェンの研究室に大勢の魔術官が集まっている。ソラとティアナはロープでぐるぐる巻きにされ、床に転がされていた。
「この数か月……拘束運が悪すぎる……」
「え? 何?」
「いや、こっちの話」
ソラは心の底からため息を吐いた。抵抗しようにも、ものすごい数の魔術官が押し寄せ、ジェルドも人質に捕られたような状態だったので、ほとんど抵抗する間もなく、連れて来られたのだ。
拘束された二人と同時に、意識のないジェルドも連れて来られていた。これから何をしようとしているのか……部屋の中央にそびえる、黒く大きな柱の近くに、ジェルドは運ばれていく。
「殿下に何を!?」
「ソラ・ユーミアくん……君には…感謝しているんですよ。ジェルド様には…どうにか戻ってきていただきたかったのでね。しかも、意識がないとは……ちょうどよい、くくくっ」
「殿下を呪い殺そうとしたのは、大魔官様なんですか!?」
「まさか。私にはそんな力はありませんよ…くくっ。でも…王家に代々引き継がれている呪いがジェルド様に…かかっていると分かった時、私は解呪方法の研究の依頼を受けた。そ、それが…幸運の始まりだったに違いありません」
メイヴェンが話しているうちに、柱の一部がぱかりと開き、ジェルドがその中に納められた。
「お二人は…『事故に巻き込まれて亡くなってしまう』ので…最後は私の研究の成果も…教えてさしあげますね」
すっかり気分が高揚した状態のメイヴェンは、聞いてもいないのに勝手に語り始めた。
「…ジェルド様の呪いは、魔力を吸い取り続ける…蛇でした。それ自体を消したり…取り除いたりすることは…不可能。しかし、その蛇から…他者へ魔力を横流しできる方法を発見したのですよ」
「……メイヴェン、あなたは6年前、急に魔力量が増え、現在の地位についたそうね。それが、ジェルド様の魔力を奪っての結果だったわけね」
「う、奪ったなどと……物騒ですね。どうせ…そのまま吸い取られるだけだったものを…こちらに…お借りすることの何がいけないのでしょう」
きっ、と睨むティアナに、メイヴェンはにっこりと微笑んだ。そんな話をしている間に、ジェルドの入れられた大きな柱はしだいに黒く光り出した。
ソラが息をのんで見守ると、柱の周りには、さきほど見たよりも大きな蛇が巻き付いていた。その首は、いくつにも枝分かれしている。
「そんな! さっき倒したはずなのに!」
「あれ…何度も言いましたよね? 頭の弱いソラ・ユーミアくんには…覚えていられなかったですか? 『解くことも消すこともできない呪い』なんです。……それにしても、ジェルド殿下はやはり素晴らしい…恐ろしいほどの魔力です。この魔力分配装置によって、ジェルド様から搾取した魔力を…魔術官達に分け与え…底上げしても余りあるほど…溢れていますね」
頭がいくつもついた蛇からは、魔力が溢れ、部屋に集まっていた魔術官達に向かって流れ込んでいる。その場の人間は瞳の色が紫色に、髪の色は銀色に変化し始めていた。
「殿下の命が危ないです! 即刻やめてください!!」
「ふふっ…死んでもらっては困りますね、でも…ご安心ください。ジェルド様の…寿命を延ばす、恒久装置がこれです!」
黒く光り続ける柱に、ジェルドの入れられた場所とは別の扉が開いた。
「あ、あなた達二人には…ジェルド様の糧となってもらいます。ジェルド様の…魔力を妨害する聖女様が王都に戻ってこられる…と聞いて心配していたのですが……いい燃料になりそうなので良かったです。ソラ・ユーミアくんも……まあ、ちょっとした足し程度にはなるでしょう」
「ふざけるな!!」
二人が必死に抵抗するも、柱に向かって運ばれる。
「突入!!!!」
柱に入れられる寸前で、大きな叫び声と共に、扉が開け放たれた。あっという間に、騎士団が乱入する。
「ええ!? どうして??」
「嫌な予感がしたから、連絡をとっておいたのよ」
「さすが、ティアナ! 頭の切れる人間は一味違う!!」
二人が話している間にも、騎士団と魔術官の間では、大乱戦が始まっていた。ソラとティアナも拘束を解いてもらうことができた。
「二人とも、大丈夫ですか?」
「ありがとう!!」
ソラも自由になった瞬間、戦いに加勢しに行く。
「みなさん、魔術官たちは今、魔力が普段の数倍高まった状態です! 十分お気をつけて!」
ティアナも聖女の力を使い、皆をサポートして戦っている。
「殿下!!!」
ソラは、柱の中に入れられたジェルドが心配で、戦いの合間をかいくぐって近寄って行った。
佳境に入ってきましたので、明日からは複数回更新します。
最後までお付き合いくださると嬉しいです。




