21.正義のヒーロー
両手から血を流したソラが、ジェルドを背負って城まで現れた時、一時騒然となった。ジェルドはすぐに運ばれた。ソラも手当を受け、今は王城の一室で事情聴取を受け終わり、放心状態で座っている。
「ソラ! 大丈夫!?」
バーンと扉を開け、勢いよく入って来たのは、姉である聖女ティアナ。
「ティアナ……殿下が……」
ティアナは一つため息をつくと、ソラに近付き、隣に座った。
「ジェルド殿下は、とりあえず今は容態は落ち着いて、自室で寝ているわ」
「そう、よかった」
「だから、あの時教えようとしてたのよ! ジェルド殿下ったら、ここのところ、相当追い詰められていたんだから」
「え?」
「四六時中部屋に籠りっきりで、ずっとソラのこと監視してるし、私の話なんかちっとも聞いてくれないし!」
「か、監視!?」
……どうりで、殿下に話していないことを知っていたのか……ソラは妙に納得してしまった。
「私の力では、ジェルド殿下の呪いの進行を止められないのよ、せいぜい現状維持。それなのに、あんなに呪いが進行するような自堕落生活送っちゃって……それに、私は、ジェルド殿下の命を狙う『黒幕』からの攻撃を、ずっと結界張って守ってたの! ジェルド殿下本人が全く自衛するつもりがなかったからね!」
何もかも、知らなかった。正確には、知ろうとしなかった。自分の都合で逃げ回っていた間に、ジェルドは苦しんでいたし、ティアナにも相当な負担をかけていた。
「……ティアナ、ごめん」
ティアナは、やれやれといった様子でため息をついた。
「ジェルド王子が、本当に求めているのは、あなたなんでしょ? そばで、しっかり見ててあげないと」
「……うん」
ソラは、情けないくらいに小さくなり、うなずいた。
許可が下りると、ソラはジェルドが休んでいる部屋を訪れた。
大きすぎるベットには、ジェルドが力なく横たわっている。顔は真っ白で、呪いの痣がくっきりと見える。屋敷で倒れた時は苦しそうに呼吸していたが、今はそれすらも弱まっているようだ。
「殿下……」
返事はない。あれから、意識は戻っていないという。
「……ねえ、6年前のこと、覚えてる?」
ソラの傍らに立つティアナが、ぽつりと呟いた。
「殿下が……呪いを受けた時のこと?」
「そう、あの頃私は聖女としての力に目覚めたばかりだったわ。そして、ジェルド殿下の危機に呼び出された」
「うん。そして、瀕死の殿下を助けたんだよね?」
「いいえ、あの時、ジェルド殿下を助けたのは、ソラ、あなただったじゃない」
「え?」
ソラは記憶を手繰った。あの時……
聖女としての経験も浅いティアナに、一国の王子を助けるという重責が舞い込んだ。不安がるティアナを心配して、家族で王城の一室に滞在することを許可されていた。その時……確かにソラも一緒に来ていた。
「え……!?でも、私、魔法なんて使えないよ」
「炎や氷を出すなど、目に見える力だけが、魔法じゃないの。私ではどうしようもなかったのに、ソラがジェルド殿下の部屋を訪れた後、意識を取り戻したのよ。どうやったか、思い出して」
……あの時は……訳も分からず、王城に滞在できることにわくわくしていた……そして、一つの部屋を見つけて……
ソラは昔を思い出しながら、そっと目を閉じた。
目を瞑れば、意識がないまま横たわるジェルド殿下の周りに、何か大きなうねりを感じる。
(まさか、これが……魔力の流れだというの?)
そしてそこに、沼の底のような深い闇を見つけて……
ソラは、ジェルドの腹めがけて、思いっきり拳を振り下ろす!!!
「か、はっ!!」
意識のないジェルドから、強制的に息が漏れる。
その時、壁際で待機していた警備兵達が一気に近寄ってきた。
「ちょっと! なにしてんですか!!」
「いま、殿下を助けているところだ!」
「いやいやいや! どちらかというと、とどめを刺しにいってますって!」
羽交い絞めにされたソラは、なおもジェルドに向かって攻撃を繰り出そうと暴れる。
「うるさい! 邪魔するな!」
「こいつ、ついにおかしくなってしまったのか?」
騒然とする中、ティアナが冷静に警備兵に伝える。
「いいえ。ちょっとやり方はアレですが、ソラはジェルド殿下の中の呪いを払っているのです。私が見届けますから、みなさんは外へ」
「でも……どう見ても殿下が大変な事になってますよ」
「このまま何もしなければ、確実に命を落としますわ! 呪いの浄化には集中力が大事なので、今すぐ室外へ立ち退きなさい!」
さすがに、聖女がそういうならと、兵士たちは疑心暗鬼のまま部屋を出ていった。部屋にはジェルドとソラ、ティアナの3人だけになった。その瞬間、ティアナが部屋に強い結解をはる。
「ソラ、さあ、思う存分暴れて構わないわよ?」
「ティアナ、ありがとう」
ソラは、昔から勘が鋭かった。先ほど殴られた「呪い」は、ジェルドの体から這い出て、天井に届くくらい大きな蛇になった。
(この呪い打ち勝てるのは……己の力のみだ。)
ソラは目をつぶったまま、首をもたげる大蛇と対峙する。体中に、光が集まってくるのを感じた。
「なに、これ……私、発光してる!?」
「うん、ソラ、なぜか眩しいくらいよ」
ティアナと会話している間にも、蛇は距離を詰めてくるので、ソラもじりじりと相手の様子を伺う。そして——蛇が動いた瞬間——。
ソラは跳んだ。そして、その剣は、大きな光のうねりとなって、大蛇の胴体を真っ二つにする。
蛇は地面をのたうち回り、黒い霧となって掻き消えた。
「ソラ、かっこいいわ!!まるで『正義のヒーロー』じゃない!」
未だに体全体が発光したままのソラは、照れくさそうに頭を掻いた。




