第62章幕間
「一体何だっ?」
「分からなイ! 何か弾丸のよウな物が飛んでキたことだけハ確かダ!」
東区と中央区を信濃川の川底で繋げる、新潟みなとトンネル。その手前の道路。そこを進む一台のハイエースの中で飛び交う女の子の声。
レーゼとの会話を打ち切った愛理の言葉に、焦ったようにそう返すは、ツーサイドアップの髪型をしたツリ目の少女、権志愛である。突然何かが車の側面に衝突したのだ。志愛も相当に動揺している。大きく道路から外れて停車した車の被害は大きく、車内にまで分かるくらいの凹みが出来ていた。窓も罅が入っている始末だ。
散らばった箱の中身が、薬草が入っていると見せかける為のダミーであり、空だったから良かったものの、そうでなかったら今頃大惨事だろう。
「おとと! さっき撒いた奴とは、違う敵かなっ? ――優一さん! 多分、エンジンは大丈夫! このまま運転続けても大丈夫だと思うよ!」
「すまない! 皆、しっかり掴まっていてくれ!」
意外にも落ち着いているのは、エアリーボブの少女の橘真衣華。優一はそんな彼女に驚きと感心を覚えながらも、再び車を走らせた。
「敵なのは間違いないガ、どこから攻撃してきタ? 姿が見えないゾ!」
「こっちも見つからん! だが、一発で終わりってことはないはずだ!」
「一旦トンネルの中に入る! そうすれば、攻撃される方向も、前か後ろからに限られるはずだ!」
「――っ! 見て! 前のトラック!」
真衣華の声の直後、前方から鈍い衝突音が聞こえてくる。
四人が乗っている車に襲撃があったのを見たからか、大きくスピードを上げ始めていたトラックも、その側面を凹ませて、大きくスリップしていた。
「まさか、あのトラックも狙ったのかっ? 我々とは無関係だぞ!」
あくまでも、たまたま前を走っていた大型のトラック。襲撃してきた敵は、あれにも薬草が入っているのではと思ったのだろう。あまりにも不運なことだった。
「マーガロイスさん達のところにも敵が数撃してきた。そこで、向こうに薬草があるのは分かっているはずなのに……!」
まだ情報が伝わっていないのか、それとも念には念を入れてということなのか。
愛理の眼が、トラックの荷台にデカデカと書かれた『StylishArts』の文字に向けられる。
全くの偶然。レーゼにさっき言いかけた『良いものを見た』というのは、あのトラックのこと。
あそこには、修理が終わった優の『霞』が積まれているのだ
***
一方、午後三時十七分。
中央区東中通の、とあるホテル。
ここには、ニケ・セルヴィオラが泊まっている。記憶を読み取れるニケを警戒し、久世が彼女を始末しようと刺客を送ってくるので、今はここに隠れてもらっている。
辺りには別のホテルもあり、そこには私服警官も張っているため、傍から見れば、そちらの方にニケが隠れていると誤解させる策をとっている。
無論、こちらに警備が全くない訳ではなく――
「さ、お茶が入りましたわ」
湯気の立つ紙コップを窓際のデスクの上に並べるのは、ゆるふわ茶髪ロングの桔梗院希羅々。いつもの通り、烏龍茶である。
「あぁ、すみません。お構いなく」
「いえいえ。しかし、紙コップでは雰囲気が出ませんわね。ちゃんとしたティーカップを持ってくれば良かったのですが……」
どこか申し訳なさそうにするニケ・セルヴィオラに、希羅々が肩を竦めると、ベッドに腰掛けていた黒髪サイドテールの少女、優がジト目を向けた。
「私は寧ろ、こんな時にポッドを持ってきていた希羅々ちゃんに驚いてるわ」
「これだから庶民は。いいですか? こういう時に大事なのは、平常心。全力が出せるのは、心身共にいつも通りになっている時でしてよ」
「嘘言わないでよ。私は今日のテスト、いつも通りの状態で受けたけど、散々だったんだから」
「それはあなた、ただの準備不足でしょうに……」
それとこれとは話が違うだろうと、希羅々はやれやれと言った様子でそう突っ込む。
すると、部屋の戸がノックされた。
希羅々が金色のレイピア、『シュヴァリカ・フルーレ』を片手に、扉のところまで行って「合言葉は?」と尋ねると、「烏龍茶」と返ってくる。
希羅々が扉を開けると、そこにいたのは雅。そして横には、目つきの悪いおかっぱの女性、警察官の冴場伊織がいた。
「戻りました。はいお菓子、買ってきましたよ」
「ついでに定期連絡も受けてきたっす。今のところ、ホテルへの襲撃はねーですって。どうも敵さん、雅ちゃん達が採ってきた薬草の方を奪おうと躍起になっているみてーっすね」
「お疲れー。てか、やっぱあれだね。シングルルームに五人も入ると、狭すぎてヤバいんだけど」
「ま、ただのビジホっすからね。ニケさんには悪ぃですけど、少し我慢してくだせーっす」
「いや、こちらこそ申し訳ない。色々大変な想いをさせてしまって……」
こちらのホテルも、誰もいないと見せかけているが、勿論そんなことはない。雅、優、希羅々、伊織の五人が、彼女の側にいる。
雅が買ってきたお菓子を摘みながらティータイムが始まり、一見すると、今のところは何も起きなさそうな雰囲気。伊織の言葉通り、敵の戦力の大半が、薬草強奪に費やされているのだと思われた。
……が、雅達の誰一人として、油断してはいない。今までの経験上、このまま何事も無く終わるとは、とても思えなかった。
それを裏付けるように、ホテルの裏側の道路に、一台の車が停まり、そこから男が一人降りてくる――
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