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第556話『不覚』

 シャロンと佳奈美が、人工種パワーストーン科レイパーを撃破した直後。


 別の場所――会社の玄関先で戦っている、レーゼと人工種ポルカブト科レイパー。


 騎士の姿に変身したレーゼが、敵の胞子や、毒のある葉っぱに注意しながら、何とか拮抗状態を保っていた中、


「ッ?」

「この音……やったわね!」


 近くから聞こえてきた爆発音に、ずっと険しいままだったレーゼの顔が、この時ばかりは明るくなる。


 後はお前だけだと、改めて空色の西洋剣、『希望に描く虹』を握る手に力を込めるレーゼ。


 だが、


「っ? 待ちなさい!」


 あろうことか、人工種ポルカブト科レイパーは、レーゼを無視し、爆発が起きた方へと向かいだす。


 会社の出入口から入って、庭の方へ。レーゼが慌ててその後を追う。


 レーゼのその顔は、困惑に塗れていた。


 恐らく人工種ポルカブト科レイパーは、人工種パワーストーン科レイパーに変身していた一哉を、口封じの為に始末しに行ったのかもしれない……が、向かう先には、シャロンと佳奈美がいる。一ラウンド終わった後とは言え、二人はまだ戦えるはずだ。このままでは、三対一になってしまう。これは、敵にとっては不利な状況だろう。


「シャロン! カナミさん!」

「むっ! マーガロイス――っ? そいつは……っ」


 レーゼの声にいち早く反応したシャロン。丁度、一哉を拘束しようとしていたのだが、もう一体の人工レイパーがこちらに来るのを見て、事態を察する。


 シャロンが予想していた、薬草を奪う敵の『本命』の方……敵を倒したばかりで油断していたシャロンは、よもや、こんなに早くもう一体がやって来たことに、目を見開いていた。


「マナベ!」

「きゃっ?」


 敵から溢れ出す殺気を肌で感じたシャロンが、近くにいた佳奈美を大きく突き飛ばし、さらに一哉を蹴り飛ばす。それと、人工レイパーが胞子をばらまくのは同時。


 佳奈美と一哉はその胞子の範囲から外れたものの、シャロンはそれをモロに吸い込んでしまい――


「――っ」


 ガクンと、膝を付いてしまう。


「シャロンっ?」

「ガルちゃんっ!」

「だ、大丈……夫! 少、し、眠気……が……!」


 戦闘体勢を保とうとしながらも、しかし遂に、地面に倒れるシャロン。


 人工レイパーは、そんなシャロンに近づく――ことなく、倒れた一哉の方へ。


 そのまま、なんと一哉を抱え上げると、


「何っ?」

「あ! 逃げるよ!」


 驚くべきことに、人工種ポルカブト科レイパーは、一哉を始末することなく、その場から逃げ出した。


 辺りに胞子をばら撒きながら離れていく人工レイパー。これでは流石に追いかけられず、レーゼはただその後姿を見つめることしか出来なかった。




 ***




 数分後。


「ぐっ……すまん。不覚を取った……!」

「謝らないで。シャロンが無事だっただけでも、充分だわ。それより、体は?」

「……恐らく、問題無い」


 自分の手を握ったり開いたりしながら、シャロンは体の感覚を確かめる。あの胞子が、ただ睡魔を刺激するだけのものだったのか、それとも竜人の体にはそういう効果しか現れなかったのかは不明だが、兎に角、命に別状はないもののよう。


「中で倒れていた者達は?」

「もう目は覚めている。今のところ、死人はゼロ。ただ、体調不良を訴えている人がいる。応急処置は施したけど、病院で検査が必要よ」


 直後に聞こえてくる、救急車のサイレンの音。


 シャロンに向けて、「あなたも診てもらいなさい」と言いながらも、レーゼの顔は少し険しい。


「あの胞子、やっぱり厄介ね。シャロンが眠らされるのは、流石に予想外だった」

「儂もじゃ。人間と比べて、毒などには耐性があるつもりじゃったが……あれでは、迂闊に近づけん」

「遠距離からの攻撃で、何とかするしかないわね。……そうなると、()()に何とかしてもらうのが一番かしら?」


 レーゼの脳裏に浮かぶ、金髪ロングの研究者兼魔法使いの女性。敵が植物系の人工レイパーだということを踏まえても、一番有利に戦えそうである。


「問題は、タイミングよく対面させられるかってところよね。敵の行動なり、潜伏場所なり、何か情報が分かれば良いんだけど……」

「変身者の正体が分かれば良いんじゃがな。……そうじゃ、陽動で動いてくれておる他の者達は、今どんな様子じゃ?」

「定期的に連絡が来ているわ。今のところ、怪我人がそれなりに出ているけれど、死者は無し。ただ、アイリ達からの連絡が、最後に来てから時間が経っているのよね。そろそろ定期連絡の時間だけど――おっと、グッドタイミングよ」


 レーゼのULフォンから鳴る呼び鈴。愛理からだ。


 レーゼ達とは別方面にいる愛理、真衣華、志愛。彼女達は優一の運転する車に乗り、薬草を運んでいるフリをして敵を引き付ける役目を担っていた。


「もしもし、私よ。レーゼ」

『お疲れ様です、愛理です。少し遅くなりました』


 一先ず元気そうな声に、レーゼがホッと息を吐く。そう簡単にやられる者達ではないと知っているが、危険な任務を任せている手前、やはり無事だと分かれば安心もしよう。


「全く、少し心配したわ。こっちも人工レイパーが二体撃退したばかりだから」

『そうですか。ついにそちらに……。こっちも、一度襲撃がありました。少し前まで戦っていたんですが、さっき逃げていきまして……。こっちは三人いましたから、埒が明かないと悟ったのかもしれません』

「油断しないで。体勢を整えて、すぐにまた襲ってくるかもしれないわ。……もう少しだけ頑張って頂戴。五時までには、こっちの加工も全部終わるから」


 今、無事な社員が薬草の加工を引き継いでくれている。作業に支障は出たが、止まっているわけではない。こんな事態になっても協力してくれる会社の人達には、頭が下がる想いだ。


「ところで、そっちは今どの辺り?」

『空港の近くです。東区の。一旦敵を撒くのに、日本海方面の道を進んで迂回中ですね。みなとトンネルを通るかも。あぁそうだ。マーガロイスさん。実は、良いものを見て――っ?』

「っ? 何、今の音っ?」


 愛理の言葉を遮るように聞こえてきた、何か重い物がぶつかったような大きな音。


 愛理が『すみません! 後でまたかけます!』と電話をぶつ切りにし、レーゼが彼女の名前を叫ぶが、聞こえてくるのは空しいツーツー音のみ。


「敵襲かっ?」


 察したシャロンのその言葉に、レーゼは険しい顔で小さく頷く。




 まだ、戦いは終わらない――

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