第555話『電流』
何が起きたのか、シャロン本人でさえ、最初は分からなかった。
彼女が雷球型アーツ『誘引迅雷』の電流を浴びていたら、突然アーツが光を放ち、それがシャロンに乗り移った。すると、一瞬にして目の前が白く染まり、すぐに晴れたと思ったら、目の前に、人工種パワーストーン科レイパーに殺される直前の佳奈美がいたのである。
しかも、猛スピードでそちらへと向かっている最中ときたものだ。
そこから先は、反射行動。そのスピードのまま、咄嗟に佳奈美を抱え、止まった時には既に人工レイパーから遠ざかっていた。人工レイパーは消えた佳奈美に戸惑っていたのと同じように、シャロンもまた、今の現象に戸惑っていたのだ。
だが、シャロンが戸惑っていたのも最初だけ。
落ち着いたら、何が起きたのか、本能で理解した。
「……『電流化』」
自分の頭に浮かんだ言葉を、シャロンはそのまま口にする。
つまり――
「成程。これが……儂が授かったスキルの名前か」
自分の体を電気に変え、電線等を伝って移動出来るスキル『電流化』。
ここは会社の敷地内の庭。会社の中には、電気で動く機械がいくつもある。外からは見えないが、建物の壁の中には電線が這っているのだ。
スキルで電流となったシャロンは、壁の中の電線に入って人工レイパーの近くまで移動し、電線から出たところで元に戻ったのである。そして元に戻っても、電線から飛び出た時の速度がいきなり無くなることはない。超高速のまま、佳奈美を救出出来たというわけだ。
「ガルちゃん! 間に合ったんだ!」
「うむ、そのようじゃな。……さて」
佳奈美を下ろしたシャロンが、気合を入れるように翼を広げて尻尾をしならせて、唖然としている人工レイパーの方へ向く。
威嚇するように戦闘体勢をとり――
「反撃開始じゃ!」
そう叫ぶと同時に、敵へと向かって勢いよく地面を蹴った。
気圧されている人工レイパーに向かって爪を振るい、それを腕で防がれた直後、
「っ?」
誘引迅雷の雷球から迸った電流が、人工レイパーの足元に絡まる。
それによろめいたところで、一発尻尾を叩き込み、大きく吹っ飛ばすと――
「――こっちじゃ!」
「後ろっ?」
スキル『電流化』を使って移動し、吹っ飛ぶ敵の背後に回る。
そして、敵が何かをするより早く、シャロンの爪が、人工レイパーを地面に叩きつけた。
さらなる追撃を――シャロンが行動に出ようとした、その時。
「舐めるな……っ!」
「ぬぅっ?」
地面が盛り上がり、先端が尖った巨大な石柱が飛び出てくる。敵が体の一部を変えて、反撃してきたのだ。足を地面に潜り込ませ、地中から発射したのである。
間一髪で飛び退いたことでダメージはないが、このまま押し切ろうとしていただけに、今の反撃は中々に痛い。
さて、次はどうするか……シャロンが攻めあぐねていると、
「ガルちゃん。作戦があるんだけど――」
近づいてきていた佳奈美が、敵に聞こえないようにそう囁いてくる。
それを聞いたシャロンは、一瞬驚いた顔をするが、
「―――分かった。マナベの策に乗ろう。じゃが、無茶はするな」
上手くいけば、勝負を決する一手になりそうな話。賭けてみる価値は、充分にある。
シャロンが誘引迅雷を操り、電流のネットを放り投げ、敵がそれを回避。
しかしその動きを予想していたシャロンは、既に先回りしていた。
そのままシャロンのテールスマッシュを受け、空へと飛ばされる人工レイパー。
「これで止めじゃ!」
そう叫び、三度『電流化』を使って建物の中に飛び込むシャロン。
また、どこからともなく飛び出て、高速で攻撃してくるのだろう。人工種パワーストーン科レイパーはそう確信する。
だが、ただの突進攻撃をするつもりでないのは明白。
人工レイパーは見逃していない。誘引迅雷が、電流のリングを創り出していることを。
電線から飛び出たシャロンが、そこを通るつもりだということも。
化学や物理に疎い一哉でも、電流となったシャロンがあのリングの中心を通れば、電気の力で急加速することくらい知っていた。
それは恐らく、とんでもない速度になるだろうということも、想像がつく。そんな速度でタックルされれば、いくら石の頑丈な体とて、ひとたまりもないだろう。
……が、それでも慌てることはない。
自身は今、空中にいるのだ。
ならば、あれが使える。――ターコイズの、空中での無敵化能力が。
いかにシャロンの攻撃が強力であっても、無敵化能力の前では無意味だ。
シャロンの攻撃を凌ぎ、反撃すれば、上手くいけばシャロンを倒せるはず――そう思った人工レイパーの胸元が、歪む。今のタイガーアイから、ターコイズへと変化させるために。
だが、その時。
「今だぁぁぁあっ!」
佳奈美の声が轟き、彼女が『何か』を、人工レイパーの方へと投げつけてきた。
一体何を――そう思った人工レイパーの目が、その『何か』の正体を捉える。
それは、フローライト。ビーム攻撃で散らばった際の、あの破片。
佳奈美はあの時、これを拾っており、それを投げつけたのだ。
飛んでいく先は――人工レイパーの胸元。
今、石を変える為に歪んでいる部位だ。
そこに吸い込まれる、フローライト。
「一体何を?」
無論、効かない。あんな小さなフローライトの欠片を投げたところで、一体何になるとさえ思った。
が……しかし。
刹那、人工レイパーは目を見開く。
一瞬だけ体に掛かった浮遊感と、内側から溢れていた無敵の力が、嘘のように霧散したから。
「な、何故……っ?」
「タイガーアイはケイ酸塩鉱物! フッ化カルシウムのフローライトを加えると、成分が分解されやすくなるんだよ! 知らなかったでしょ!」
「何っ?」
一哉は、パワーストーンの持つ力や歴史、言い伝え等には詳しい。
だが、化学的な成分等の知識に関しては、佳奈美の方が一枚も二枚も上手だ。パワーストーンの持つ力はともかくとして、タイガーアイやフローライト、ターコイズの主成分が何かくらいは、化学を学んだ者の常識として知っている。
そして、勿論、フローライトが融材として使われるということも。
人工種パワーストーン科レイパーの能力変化の特性は、胸元に出現するパワーストーンの種類によって変わる。ターコイズなら浮遊能力と、浮遊中の無敵化能力。フローライトならビーム発射能力を得ることが出来る。
だから佳奈美は仮説を立てた。もしそこのパワーストーンが無くなったら、この人工レイパーの能力は消えるのではないかと。
そして偶然にも、地面に落ちたフローライトを見つけたことで、その仮説の実行を企んだのだ。
おあつらえ向きに、敵の胸元の石が切り替わる際に、グニャリと融解するような現象が起きたため、拾っていたフローライトを投げ込んでみたのである。
その結果は、ご覧の通り。
「さて、覚悟は良いかのっ!」
「――っ」
声と共に、電流となったシャロンは飛び出てくる。
一哉の予想通り、電流のリングの中心を通って。
猛スピードで突進してくるシャロン。
もう、無敵化能力は使えない。
空では避けられず――
「はぁっ!」
「ッ!」
人工レイパーの腹部に、超高速のシャロンのタックルが直撃。
瞬間、人工レイパーの石の体が一気に砕け――
シャロンが貫通した刹那、人工種パワーストーン科レイパーは、悲鳴と共に大爆発するのだった。
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……フッ化カルシウムのくだり、間違っていたらごめんなさい! 多分合っているはず!




