第554話『雷浴』
何故、自分はスキルを貰えないのか。
雷球型アーツ『誘引迅雷』を使い始めてしばらく経った頃から、シャロンがずっと悩んでいたこと。
(もしかすると、儂はあぐらをかいておったのかもしれんな……)
雷の力を司る竜――その事実に。
無意識に、思っていた。自分は電気のことなら、何でも理解していると。その身に雷を宿しているのだから、知らないことは何もないはずだと。
だが、今日。シャロンは、それが違うことを知った。『メディカルコープ』の技術を知り、弱い電流に、あのような使い方があることをシャロンは全く知らなかったし、考えたこともなかった。
(タチバナは確か、アーツが持ち主を認めるのは、相撲の心技体に近いものがあると言っておった。恐らく、儂に足りんかったのは……『技』)
ある程度アーツを使いこなしていたつもりではあった。誘引迅雷の電流を束ねて鞭や網、盾にしたり、大きな雷球を作って敵を帯電させたり、力を借りてビームを放ったりと、色々やっていたから。
だが、電気や雷の知識が不足している以上、それにまつわるアーツを使いこなせているはずはない。
これが攻撃用のアーツなら、そこまで知識を求めることは無かっただろう。事実、雅達のアーツは、持ち主にそこまでのことは求めていない。しかし誘引迅雷は、あくまでも戦闘補助用のアーツ。故に、心技体の中でも特に、技が重視される。
「さて……どこまで分かってやれるかは、儂次第じゃが……!」
腕から離れ、体の周りに集まる十二個の雷球。
そこから溢れた電流が、シャロンの体に纏わりついていく。
バチバチとスパークするシャロンの体。逆立つ毛。
「さ、流石に効くのぉ……! じゃが、負けん!」
直接体に電流が流れているのだから、さしものシャロンと言えど、痛みはある。それを、歯を食いしばって耐えながら、電流を強くしていく。
何故こんなことをしているのか。それは――
「お主の雷を理解するには、こういうのが一番じゃからな!」
電気や電流、雷……それの科学的な知識や、魔法学的な知識を理解する頭は、シャロンにはない。
だから、力業だ。誘引迅雷の電撃を直接浴びて、体で理解する。
自分の中の雷と、アーツの雷を混ぜ合わせ、体内で融合させるシャロン。そして出来た電撃を、全身に送っていく。その度に、相当な痛みが駆け巡る。それでも決して、止めることはない。
それに――
(今、それとさっきの、そしてこの間の、あれ……)
痛みとは別の、もう一つの『とある感覚』。
先日、人工種水晶科レイパーを倒した後にも、似たような感覚を覚えていた。思い起こせば、あの時も、敵の放ったスパークボールに、偶然自分の雷が含まれていただけではあったが、それでもシャロンは自分で自分の電流を浴びた。
それが、伝えてくる。
このやり方は、合っているよ……と。
「マナベ……もう少し、堪えてくれ!」
シャロンの邪魔をさせないように、単身で人工種パワーストーン科レイパーに立ち向かう佳奈美を見ながら、シャロンは意識を、雷に沈めていく――
***
「とぁぁぁっ!」
佳奈美の繰り出す、トンファー型アーツ『乾坤一擲』の一撃。
下から突き上げるように放たれたそれが、人工レイパーの腹部に強烈に抉り込む。
だが――
「効きませんよ」
「きゃっ!」
敵は、何事も無かったかのように、剣に変形させた腕を振るう。岩の頑丈な体には、佳奈美の打撃攻撃は効果が薄い。佳奈美は敵の反撃をトンファーで防ぐが、力負けして吹っ飛ばされてしまった。
「ガ、ガルちゃん……早く、何とか! 多分、あんまり長く持たない!」
少しばかりの攻防で、自分と敵の実力差をはっきりと理解してしまう佳奈美。
もう既に、逃げたい、楽になりたいという気持ちが顔をもたげており、死の恐怖が心にちらついている。それを誤魔化すためにそう叫ぶくらいには、この人工レイパーは強かった。
佳奈美は、日本人の平均で見れば、若干だが戦闘は得意な部類に入る。学生時代、部活で中国拳法を嗜んでいたからだ。アーツがトンファーなのも、それが由来。事実、レイパーを倒したことも、数回ある。
が、今回は相手が悪い。歴史改変の影響で、人工レイパーは強くなっている。竜人のシャロンでさえ苦戦する敵に、一般人の佳奈美が敵うはずはない。こうなるのは必定。
何度も繰り出される敵の剣戟を、乾坤一擲で何とかいなす佳奈美。受け止めるのではなく、受け流す形の防御だ。
だが、完璧に攻撃を受け流せるほどの技量はない。敵のパワーが、衝撃が、腕に伝わって蓄積し、段々と痺れてくる。トンファーを握る手が緩まないように意識せざるをえないくらいに。
「そろそろ沈みなさい」
「きゃっ!」
人工種パワーストーン科レイパーの腕が、剣から今度はハンマーへと変化。そこから繰り出された一撃が、片方のトンファーを弾き飛ばす。
さらに、腹部に目掛けて放たれる二発目のハンマー攻撃。それを佳奈美は、大きく跳び退いて躱すしかない。竜人でさえ呻かせる一撃は、人間が喰らって良いものでは断じてないからだ。
その時だった。
(っ? これは……!)
一旦大きく距離を取ったからか、佳奈美の目が、地面に落ちている、小さな石を捉える。
ただの石ではない。――ピンク色の石……ピンクフローライトだ。
今までただの一度たりとも、この辺りでピンクフローライトが落ちているところは見たことが無い。
こんなものがここに落ちているということは、
(さっきのビーム攻撃で出来た石? いや、もしかして、あのビームが実は石だったんじゃ……?)
最初から石の塊をビームに見せかけて放ったのか、シャロンの腕で爆ぜた際に石になったのか、そこまでは判別がつかない。……が、ほぼ間違いなく、あの人工レイパーのものだろう。
とは言え、
「余所見とは、随分余裕ですね」
「っ?」
そんなものに気を取られている余裕は、佳奈美には無かった。
気付けば、敵はもう目の前。腕のハンマーも、もう振り上げられていた。
片方のトンファーだけでは、この一撃はいなせない。瞬時にそう悟ってしまう。
殺される――そう思った、その時。
「っ?」
消える。
人工レイパーの前から、佳奈美の姿が。
空を切る。
振り下ろした、ハンマーが。
「どこに行った……?」
慌てて辺りを見回す人工種パワーストーン科レイパー。
そして、すぐに見つけ……その動きを、硬直させた。
「すまんな。遅くなった」
「ガ、ガルちゃん……っ!」
人工レイパーの眼が捉えるは、離れたところにいる、竜人と人間の姿。
シャロンが、佳奈美をお姫様抱っこして、そこに立っていた――。
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