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第553話『力石』

 正直に言えば、レーゼはこの事態を、予想していた。


 いや、嫌な予感がしていた、という方が正しいか。


 ここに来るまでに、実は一度――確証はないが――久世の手先と思われる者に追跡された。そいつは、セリスティアとライナが引き付けて、上手くレーゼ達のマークを逸らしてくれたのだが、向こうに警戒された事実に変わりはない。何らかの形で、見失ったレーゼ達の車の行方を追ってくることは有り得る話だ。


 乗っていた車には社名が入っていたため、もしかすると、ここ『メディカルコープ』に先回りされているかもしれない。


 そうでなくとも、何となくだが、レーゼは自分の動きが読まれているような嫌な感覚が、ずっと纏わりついていた。襲撃の音を聞いた時は、驚きよりも、「やはり来たか」と思ったくらいだ。


 が、しかし――敵が二体で襲ってくること、そしてその内の一体が、まさかポルトニアで戦った『人工種ポルカブト科レイパー』であることまでは、流石に予想していなかった。


「はぁっ!」


 レーゼの背後に出現する、環型の虹。瞬間、レーゼの体に、空色の鎧が出現していく。彼女の切り札である変身だ。


 レーゼは西洋剣型アーツ『希望に描く虹』を振るう。狙いは人工種ポルカブト科レイパーの胸元……と見せかけて、これはわざと敵に避けさせるためのフェイク。


 人工レイパーが体を逸らす動きに応じ、レーゼは息も吐かせぬ程の速度で斬撃を繰り出していき、それもわざと躱させながら、巧みに敵を、部屋の外まで誘導していく。


 だが、人工レイパーが思い通りに動いてくれているにも拘わらず、レーゼの顔は必死だ。


(早く! 奴が胞子を撒き散らす前に!)


 この人工レイパーは、毒のある胞子をばらまく能力があることは知っている。こんなものを、製薬会社の中で撒かれる訳にはいかない。ここには、気を失って無防備な社員が何人もいるのだ。


 一刻も早く、こいつを外に出さなければ――その焦りと想いが、レーゼの動きをさらに加速させ、五感を鋭く研ぎ澄ませていく。


 大きく横一閃の斬撃。それを仰け反って躱す人工レイパー。


 しかし、それこそがレーゼの狙い。斬撃が通った跡に架かる虹の軌跡が、今、敵の視界から彼女を覆い隠してくれている。体勢が悪い今、レーゼの動きに反応することは不可能。


 虹のカーテンの中から現れたレーゼ。人工種ポルカブト科レイパーの腰にタックルをかまし、そのまま一緒に会社の出入口から外へ追い出すのだった。




 ***




 そして、外。シャロン達はというと。


「そぅら!」

「ぐぉぅ!」


 人間と竜の中間態のシャロンの腹部に叩き込まれる、腕を変形させて出来た石のハンマー。彼女を攻撃したのは、石を纏った人型の怪物……『人工種パワーストーン科レイパー』である。


 ズン、と響く一撃。人間ならあばらの一本が折れてもおかしくない衝撃だが、竜人のシャロンならばギリギリ耐えられる。吹っ飛ばされこそしたが、シャロンは上手く空中で一回転して、足から地面に着地すると、額の汗を飛ばす勢いで大きく敵から距離を取る。


「痛いのぉ! それにしても、なんじゃその体はっ? 前戦った時よりも、妙な色をしておるの!」


 廿六木一哉が、以前変身していた『人工種水晶科レイパー』は、体が無職透明の水晶で出来ていた。今は、あの時の見てくれとは全く違う装いで、戦っているのが前と同一人物だという認識が持てず、少し混乱してしまう。


「その石、ただの石では無いようじゃな……! マナベ! 何か知っておるか?」

「パワーストーン! そいつの胸の中心にあるのは、多分タイガーアイだよ! お高い石で、持っていると、幸運をもたらす効果がある!」


 佳奈美が、敵の胸元の、茶色と黒のマーブル模様をした石を見て、そう叫ぶ。


「お高い石? 宝石とは違うのか?」

「……宝石よりは、若干割安なイメージ!」

「…………」


 瞬間、シャロンは悟る。佳奈美の認識は、自分に毛が生えた程度だと。


 人工レイパー……いや、一哉は、二人の会話を聞いて、鼻で嗤うと、口を開く。


「御守りとして持つのがパワーストーン。装飾品として持つのが宝石ですよ」

「……ふん! つまりは神頼みということじゃろう!」


 色々と誤魔化すようにそう叫ぶシャロン。直後、アンクレットが光を放ち、シャロンの腕の周りに、十二個もの雷球が出現。


 アーツ『誘引迅雷』である。


 雷球から迸る電流が束になり、一本の太い鞭にして敵へと振るうシャロン。大きく弧を描いて飛んでいった電撃の鞭だが、人工レイパーは、重量そうな見た目に反し、意外にも身軽そうに大きく跳び上がってそれを避けた。


 が、シャロンは口角を上げ、翼を広げて空中の人工種パワーストーン科レイパーへと突っ込んでいく。敵は翼を持たない。空ならば、自由に動くことも出来ないだろう。攻撃を当てる絶好のチャンスだ。


 真正面からは避け、敵の頭上を越えて背後へ。そのまま太い尻尾を、敵の後頭部に叩きつける。


 鳴り響く、鈍い轟音。一気に落下していく人工レイパー。


 そのまま地面に叩きつけられる――そう思ったのだが、


「っ? 何あれっ?」


 佳奈美の驚愕の声が響き、シャロンが眉を顰める。地面に激突する寸前で、いきなり人工レイパーの落下が急停止したのだ。


 明らかに物理法則を無視した動きに、唖然とする二人の前で、敵の体が垂直に回り、地面に降り立つ。そして間髪入れずに地面を蹴って、佳奈美の方へと接近していく。


 その動きに、ダメージを受けた様子はない。


 人工レイパーの腕が変形し、今度は石の剣に。それを、佳奈美へと振りかざす。


 佳奈美の両腕には、二本の黄金色のトンファーが握られている。彼女のアーツ『乾坤一擲』だ。それを頭の上でクロスさせ、敵の剣の一撃を受け止める……が、すぐにくぐもった悲鳴と共に、佳奈美は膝を尽かされる。


 シャロンが「マナベっ!」と声を上げながら、血相を変えて人工レイパーに飛び蹴りをかまし――


「むっ? 効いたっ?」


 敵がうめき声を上げて吹っ飛ばされるのを見て、確かな手応え……いや足応えを感じたシャロン。


 さっきは効かなかったのに――と困惑していると、


「ガルちゃん! 胸の石が変わってる!」

「胸の石? ――はっ!」


 佳奈美に言われて気付く。人工レイパーの胸元のパワーストーンが、最初のタイガーアイから、青色のトルコ石――ターコイズへと変わっていることに。


「きっと、あの石によって、能力が変わるんじゃないっ?」

「さっき儂の攻撃が効かんかったのも、墜落を免れたのも、その能力のせいか!」

「あのターコイズ――パワーストーンとしては、『落下防止』って言い伝えがあるみたい!」


 佳奈美がULフォンで手早くターコイズについての情報を集めてそう伝える。流石は現代人、こういうのは早い。


「さっきのあの動き……『落下防止』だから、もしかして浮遊しているんじゃないかな? それに、多分浮いている間は無敵なのかも!」

「墜落直前の妙な動きは、そういう訳か!」

「ほう、一度見ただけで、そこまで特定されますか……しかし――」


 そこまで言ったところで、人工種パワーストーン科レイパーの胸元の石が、再び変わる。ターコイズから……ピンクフローライトへと。


 そして、その石が光り輝き、


「能力が分かったことと、対処出来るかは、また別の話でしょうかね」

「っ! 儂の後ろに!」


 シャロンと佳奈美へと向けて、勢いよくビームが発射される。


 シャロンが佳奈美を庇うように前に出て、腕の鱗でそれを受け止める――が、


(っ? マズい! これは――)


 刹那、()()()()()()()


 発生した衝撃は強く、シャロンは背後の佳奈美ごと、大きく吹っ飛ばされてしまう。


 ――しかも、それだけではなく。


「ぐ……マナベ、伏せたままにせよ!」

「ガルちゃんっ? ――っ?」


 攻撃はまだ続く。


 シャロンの腕を起点に爆発したビームは、まるで花火のように無数に分裂し、二人へと弾け飛んできていたのだ。


 先の一撃のダメージが残る体に鞭を打ち、立ち上がったシャロンは、誘引迅雷の電流を操り、大きな盾を作る。


 が、ビームは意外にも貫通力が高く、電撃の盾を突き破り、シャロンの身に降り注いでしまった。


 悲鳴を上げながら、膝をつくシャロン。貫通の際に電流を纏ったからか、シャロンの体も、僅かながらバチバチとスパーク。


 そんな彼女に、佳奈美は「ガルちゃん!」と叫び、人工レイパーは小さく笑い声を漏らす。


「フローライトは、別名『蛍石』。加熱すると、光を放ちながら砕け弾ける様子から、そう名付けられたそうです。――さて、今回は私の勝ちですかね?」


 そう言いながら、こちらにゆっくり近づいてくる人工レイパー。胸元の石は、最初のタイガーアイに戻っていた。


 恐らく、連射は出来ない――シャロンの直感が、そう訴えかけてくる。


 ならば、


「……マナベ。少し頼みがある。少しで良い。時間を稼いでくれんか?」


 恐らく、あのビームさえ打たなければ、佳奈美は殺されない。シャロンは、そう感じていた。


「ガルちゃん? どうするの?」

「……このままでは、どうにもならんからのぉ。賭けに出るしか、あるまい……!」


 呟きながら、シャロンの目が、腕の雷球に向けられる。


 今のままでは、負ける。空中に浮かれると無敵ならば、シャロンが敵にダメージを与える術が、大きく限られてしまうから。


 ならば、ここで強くなるしかない。




 この局面を切り抜けるには、何とかして、今、この場で、『誘引迅雷』からスキルを授かるしかなかった。

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