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第550話『囮作』

 さて、その日の夕方。五時三十七分。


「いやぁ、凄かったですね! 愛理ちゃんの魔法! ドラゴンがぽーんって飛び回って!」

「ミカエルさんやノルンの魔法とも、ちょっと違った感じだったよね? 動画でも見たけど、リアルだとまた違った迫力があってビックリしたわ」

「毒液がこちらまで飛んでこないか、正直ヒヤヒヤしましたが、スリルはありました。ちょっと怖かったですが……」

「はっはっは、そう褒めないで下さい! 照れますから!」


 そんな会話をする、雅と優と愛理、そしてもう一人……短めのブロンドヘアーの女性、ニケ・セルヴィオラである。


 無事にカームファリアから束音家にやってきたニケ。彼女も、折角だからと愛理の魔法演武の客として呼ばれたのである。


「しかし、ガルディアルさんには申し訳ないことをした。服をちょっと溶かしてしまいましたし」

「その後、カンカンになったシャロンさんに追っかけられましたもんね。まぁ一発どついたことで許してくれたようですし、あれはあれで笑いに昇華していましたから、もう気にしなくて良いんじゃないですか?」

「服も、みーちゃんがちゃちゃっと直したしね」

「それにしても、驚きました。こちらの世界の人は、魔法を使えないものと聞いていましたから……」

「アーツのコアからエネルギーを貰うことで、魔力に変換しているんです。他の人達が出来るかというと、そう簡単な話ではないようですが」


 と、魔法演武についてわいわい話し込んでいた、その時。


「四人とも、そろそろ明日明後日の打ち合わせをしたいのだけど、良いかしら?」


 そう声を掛けてきたのは、レーゼ・マーガロイス。青髪ロングの異世界人で、バスターである。


 ライナやシャロン、セリスティアも揃い、午後五時四十分ピッタリに打ち合わせが始まった。


「さて……予想通り、影武者を用意していたホテルに、人工レイパーの襲撃があった。嫌な予感がしていたのだけど、やっぱりクゼは、ニケさんを狙ってきたわね」

「私の記憶を読み取る魔法は、向こうにとっても脅威、ということですか。嬉しいような、そうでもないような……」

「それだけ、意識を失った子供達の記憶を探られるのが嫌ってことだよね?」

「しっかし、ニケさんの来訪は極秘だったんだろ? どっかから情報が漏れたのか?」


 眉を顰めるのは、赤髪ミディアムウルフヘアの女性、セリスティア・ファルト。


 彼女の言葉に、レーゼは渋い顔をする。


「ユウイチさん曰く、警察内部に、情報を流している人がいる可能性があるそうよ。ニケさんを泊める予定の候補場所が六ヶ所あったけど、四ヶ所に出現したの。ただ、裏を返せば二ヶ所は襲われなかったから、計画の全てがバレているわけではないと思う」

「人的被害は? 人工レイパーは、撃破出来たんですか?」


 尋ねたのは、銀髪フォローアイの少女、ライナ・システィアだ。


「人的被害は、軽傷者が数名。死人はゼロ。でも、人工レイパーは逃がした。ニケさんがいないと知ると、すぐに逃げたそうよ」

「……あの、思ったんですけど、ニケさん、このままうちに泊った方が良いんじゃないですか?」


 なんとなく、そっちの方が安全ではと思う雅がそう提案するが、レーゼは「止めた方がいいわ」と首を横に振る。


「この家から、ユズキ達が入院している大学病院までは遠いじゃない。その間で狙われる。一般人への被害が出るかもしれないと考えると、やっぱり病院の近くのホテルに泊まってもらう方がいいと思う」


 束音家にニケを泊めるのは、先の襲撃を予想し、そこから離れてかつ護衛もいるからという理由。


 一番は病院に泊まってもらえれば良いのだが、そこに襲撃が来ると、一般の患者に危険が及ぶため、ニケの方から断られた。そうなると、やはりこれがベストと判断したのだ。


 それに、これは敢えてレーゼは口に出さないが、万が一ニケが束音家にいるとバレた場合、またここが戦場になるかもしれない。それは避けたかった。


「……そういうことだけど、悪い話ばかりじゃないわ。今日襲撃があったホテルは、クゼ達にとってはもう『終わった場所』。だから予定通り、ニケさんを明日、そこに泊める。場所はここよ」


 そう言って、レーゼはULフォンの可視化ウィンドウを呼び出して、皆にそのホテルの情報が見えるようにする。


 それを見て、優が「ふぅん」と感心したように頷く。


「白山の大通から少し離れたところにあるんだ。逃げ道が結構あるね」

「そうよ。万が一バレても、逃げやすいホテルだから。で、明日は私達で護衛をしながらホテルに移ってもらうし、その後の護衛は他のヤマトナデシコ達がするんだけど、明後日の昼から夜の八時までは、ミヤビとユウ、それとキララに、ニケの護衛をお願いしたいのよ。イオリも一緒に護衛に入るわ」

「明後日の昼から夜の八時? あー……それは相模原、災難だったな」

「い、いや、別に大丈夫。流石に護衛の方が大切だし」

「……あ、ごめんなさい。『霞』が返ってくるのよね?」


 愛理と優の会話に、しまったという顔をするレーゼ。目まぐるしく状況が変わっていく中で、優の『霞』返却のことまで頭が回らなかったのだ。


「あー……何とかしたいけれど、ちょっと人手が……」

「あ、気にしないでください! 『ガーデンズ・ガーディア』があるから、戦闘になっても問題ないし。今までも切り抜けてきたわけで、まぁ今回も何とかなるはずですから」

「すまん。私が余計なことを言ったな。……どの道、二つ以上のアーツを一度に使うことなんて、一部の人を除いて出来ないんだ。すぐに必要になることもあるまい」

「そうそう!」


 慌てて取り繕う優と愛理。レーゼは苦い顔で頭を掻きながら、しかし大人しくその取り繕いに感謝する。こういう時にあまりゴネたりしないのが、彼女達の良いところだ。


 レーゼは、蔓延しだした微妙な空気を吹き飛ばすように大きく咳払いをすると、改めて口を開く。


「さて、他のメンバーは、()()よ。ニケの護衛もそうなんだけど、明後日に関してはもう一つ大事なことがあるわ。――治療薬の件よ。事態が切迫しているの」

「……子供の人工レイパー化、全国で起きているらしいの」


 静かにそう呟きながら、瞳を鋭くさせるのは、山吹色のポンパードルで、見た目は幼女の竜人、シャロン・ガルディアル。


 いよいよ、その話が目立つようになってきた、といったところか。


 まだ件数的には二桁といったところだが、先日の占い師の一件を皮切りに、あちらこちらで同じように子供が人工レイパーに変身する事例が、この一週間で一気に増えた。


 無論、これは確認されたものだけをカウントしている。柚希達は、自分が人工レイパーになる薬を服用している自覚が無かったので、実際に変身出来る子供達は、もっと多い。そして、倒された子供達は例外なく、副作用により昏睡状態に陥っている。


 そして、この事例は、これから先、間違いなく増加する。


 エルフの里でのアラマンダの話や、先日のポルトニアでの誘拐事件。色々と手掛かりが見つかって、本格的に全国で調査が始まったのだが、久世が関与していると思われるものを統合してみたところ、およそ千人もの子供が誘拐されていることが分かったから。


 ……話を統合すると、治療薬は一刻も早く必要、ということである。


 が、しかし、ここで問題が起きた。


「採取してきた『チリスハーブ』と『パリフィスソウ』だけど、加工しないと治療薬にはならないことが分かったの。それも、中々に手間がかかるわ」

「え? そのまますり潰したりして投与するだけじゃ駄目なの?」

「ええ、残念ながら」


 優の言葉に答えたのは、ニケ。


「彼女達の昏睡状態は特殊で、脳に一種の魔法が掛けられている状態になっています。その魔法は、薬草の成分を分解してしまう力もあるんです」

「それで、ユウカさんが有識者の方に色々話を伺ってくれたんだけど、こっちの化学技術で薬草を加工すれば、魔法による分解を防げるだろうって分かったの。ただ、その加工をすると、薬草の成分が効率よく体内に吸収されなくなってしまう。だから、薬草の成分を吸収しやすくするために、別の魔法を掛けてやる必要があるわ」

「ただ、その魔法はオートザギアにしかない特殊なものなんですよね……」

「え、ええっと……つまり……?」


 ニケとレーゼの説明が頭の中でグルグル回る優。すると、愛理が難しい顔をしながら、口を開く。


「『チリスハーブ』と『パリフィスソウ』を、私達の世界で加工した後、オートザギアに持っていって、魔法を掛けないと治療薬にはならない、と?」

「要約ありがとう。そういうことよ」

「しかし加工か。ユウカさんのところじゃ、出来ねーんだよな?」

「流石に科捜研では無理ですねぇ。……でも、私の伝手があります」

「束音の伝手?」

「ええ。長岡(ながおか)の『メディカルコープ』っていう製薬会社です。三十年くらい前に出来た企業なんですけど、創業者が、おばあちゃんの高校時代のクラスメイトなんです。今は、その息子さんが社長を継いでいて、お孫さんが係長をしています。で、そのお孫さん……開発課の係長の真鍋(まなべ)佳奈美(かなみ)さんは、私の友達なんですよね」

「な、なんか関係性がややこしい……!」


 取り敢えず、『メディカルコープ』の社員の一人が、雅と友達であるということは頭に入った優。


「薬草がそのままじゃ使えないってなった時、佳奈美さんに話をしたら、『もしかしたら、うちで加工できるかも』って話になりまして」

「大方の事情とかはミヤビが説明してくれて、ちょっと試しに加工してみようかってことなったのよ。ってことで、私がハーブを持って行くってわけ」

「みーちゃんじゃなくて、レーゼさんが持って行くんですか?」


 雅が持って行った方が良いのでは……と思ったのだが、レーゼは「そこが問題なのよ」と頷く。


「ポルトニアで、クゼが、私達が採取したハーブを狙っていることは分かったわ。きっと、今回も狙ってくると思う。ミヤビが知り合いのところに行くと、向こうも警戒を強めるかもしれない。――だから、こっちも作戦を立てたわ。実は、薬草の加工が出来そうな会社は、他にもあったのよ。そこで、そこの会社の人達に協力してもらったわ」

「む? もしや、セルヴィオラの影武者を用意したのと、似たようなことをやるつもりか?」


 シャロンの言葉に、レーゼは「ええ」と頷く。


 ――薬草の加工には難しい技術が必要なのだが、幸い、作業自体は三時間程度で終わる。


 よって、




「薬草の運搬部隊を、五つ作る。囮よ。人工レイパーを引き付けて、出来るだけ時間を稼いで頂戴。可能なら倒してくれれば完璧よ」




 そう言って、レーゼはさらに細かい話に入るのだった。

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