55. 喫茶店
二重人格とは便利なものだな。現実逃避したい時はもうひとつの人格に任せればいいんだからな。
壊れた壁から、冷たい空気が2階に流れてきた。次第に身体が冷えてきて、2階から1階に避難する事にした。事務所を購入した事で、こちらでシステムをいじれるようになったから、とりあえず、暖房をつけて温まる事にした。
「身体も温まってきたし、昼ごはん食べに行くか?」
「うん、どうするの?」
「そうだな」
周りにどんなお店があるのか、検索して見ることにした。
どうやら、この前ニアと行った安い喫茶店が近くにもあるみたいだ。値段は良心的だったから、今の懐事情なら丁度いいかもしれない。
外に出ると、空気は乾いていて、息を吐くと白いモヤが出てくる。隣からは建物が焦げた匂いがする。少し見てみると、派手に崩壊している。
俺達の事務所2階も派手に壊れている。
これだと、事務所を始めても人が寄り付かないんじゃないだろうか。
横並びになりながら歩いていると、ふと、隣のリーアを見てみると、ツイテールを揺らしながら、何が楽しいのか、ニコニコしながら歩いている。
リーアを見ていると、朝食での出来事を思い出した。
「どうしたの?」
流石に作ってくれた料理をいらないと言うのは良くなかった、とは思う。
そもそも、俺はなぜあんなにイラついていたのだろうか。考えられるとしたら、リーアと出会ってからとういうもの、問題が立て続けに起きた。
装備は細工されて、ピンチになり、信用が無くなり、支配者かもしれない奴に、洗脳されて抹殺対象と逃げて、レイジと戦い、レイジを傷をつけて、逃げて、森咲と空で戦うことになって、森咲を傷つけて、そして、レイヴンシャフトから除名された。京都に行ったら、変な事件に巻き込まれる。
リーアと出会ってから5日しか経ってないし、色々ありすぎて、情緒不安定になるのもおかしくない。
「そういえば、朝悪かったな」
「え、そんなことないよ」
リーアはコバルトブルーの長めのツインテールを揺らしながら、頭をフリフリした。
「私も松永くんが朝に固形物? が嫌いなこと知らないのに、私が勝手に作ったのが悪いと思ってるから、それに、私の知らない松永くんの事を知れて良かったよ。もっと色々知りたいな」
「お、おう」
変わってんな。
――――
木製のドアを開けると、チャリンと音が鳴った。
あ、事務所にあるやつじゃん。
「ん? 何名だ?」
「2名だ」
「テキトーに座れや」
窓際の席を選んで座った。
「ここの喫茶店は安いし、割と味も美味しんだぞ」
「本当!! 楽しみ!!」
ニアと行ったお店よりも古臭く感じるが、雰囲気は同じ感じだ。
「紙のメニュー表があるなんて、珍しいね」
「そんなのあったんだな」
「入口に置いてあったよ」
「持ってきていいやつなのかそれ? まぁいいか」
リーアは紙のメニュー表をガバッと開いて、見ている。
「このナポリタンってなんだろう? 見た目はスパゲッティみたい」
「確か、横浜まで生まれたやつじゃなかったか?」
「へー、そうなんだね」
「普通のスパゲッティはパスタソースを使ってるだろ。ナポリタンはトマトケチャップで味付けしてるんだ。食べた事はあるが、見た目よりもわりと重いから、量はあまり食べれなかった記憶があるな」
俺は紙でメニューで注文するつもりは無かったので、テーブルを叩いた。
何も起きない。
確かに、この前はここだったと思うんだが、テーブルを見ると、マークが付いていない。
「……?」
テーブルの横をまさぐってみると、硬いなにかがある。この形、この手触りはノートpcっぽいな。
横を覗くとそこにはノートpcがかけてあった。
まさか、これでメニューを見たり、注文したりする訳じゃないよな。と思いながら、他のテーブルを見ると、見た目がバラバラだが、同じようにノートpcが横に付いている。注文してる人もいる。
「流石に珍しいな」
「どうしたの? そのノートpc」
「横にあった。これで注文するみたいだ」
「なるほど……?」
リーアが不思議そうに首を横に倒した。
ノートpcをテーブルに置いて、パカッと開くと、電源がついた。
「起動、遅いな……」
料理が安いと言ってもこれだと、行きたく無くなるな。この前ニアと行った店舗はまだマシだったということか。
電源が付くと、お店の名前が出てきて、数秒間ロードをした後、メニューなどが書いてある項目が出てきた。
2208、2101………。
ポチポチ、カタカタ、注文を終えた。
「リーアも注文決めたか?」
「うん、決めたよ」
リーアの分も注文もして、席で待っていると、店員がきた。
「あー、あんたが注文した。えーと、2101は素材がないんで、取り消しにしたぞ」
「そうか。わかった」
「うーん? おい、お前、それ」
店員はリーアと紙のメニュー表を交互に見た。
「あ、勝手に取ってんじゃねぇ!?」
店員はリーアに向かって、殴り掛かった。
まさか、殴られるとは思っていなかったリーアは、困惑しながら店員を見つめたまま、体はまったく動かしていなかった。
「うん?」
バシンッ!!店員のフルスイングは綺麗に決まった。
「うぁ〜」
リーアは殴られた頭を両手抑えながら、唸っている。
もし、アズだったら、殴ってきた時に、その拳を避けて、手首を掴んで、反対の手で店員の首を掴んでからの、壁にドカンとしてたんだろうな。
店員がもう1度リーアを殴ろうと、手を挙げた時、俺は席を立って、店員の手首を掴んだ。
「別にそれぐらいで、怒る程の事じゃないだろ」
「あ? お前、これの親か? しっかりと教育をしてもらわないとな」
「親じゃないから、こんな見た目だが、お酒は飲めるぐらいの年齢はあるみたいぞ」
「は!? 合法ロリかよ。エロいな!?」
「は?」
気持ち悪い表情で、リーアを見ている。
「お、俺もさ、最近お酒飲める年齢になってさ、俺といい所行かな――」
「死ね」
思いっきり、店員を殴った。
店員はそのままノックアウトして、床に倒れた。
「うぁー、なんなの今の気持ち悪いよ」
「同意する」
寝そべる店員を見ていると、別の店員が現れた。
「すみません。こいつ、子供を見ると、殴りたくなっちゃうという、困った奴なんですよ。辞めた方が良いと言ってるんですけどね……なかなか、治らないんですよ」
「そうか。それは災難だな」
「そういう人もいるんだね」




