英雄の願い
願いを叶えてあげたい。
そんな話。(約1600字)
ある街にとても見目麗しい商人が二人やってきました。
街中の人々がその二人がどこの商店に用があるのかが気になってしまい、若い娘たちはこっそりと後をつけてしまう程です。
しかし二人はそんな事は気にならないようで、キョロキョロとした末に、近くの店にいた男性店員に近づいて行きました。
目があった男性店員は黒髪の美丈夫商人が寄ってくる事に戸惑いましたが、気を利かせて店先まで出て来ました。
そして、
「あんのぉ、おききすますんけんどぉ、こっつらの街はぁ、」
「ぶ、ぶぁふぁはっはっはっ!!ひでぇ訛り!!どこの田舎モンだよっ!!」
ものすごい訛りの黒髪の美丈夫商人に指をさして大笑いをしました。
その衝撃は近くにいた人々にもあっという間に広がり、大爆笑がおきてしまいました。
もう一人のこちらは茶髪の優男商人が「あーあ」と手で顔を覆いました。
爆笑の渦中にいる黒髪の商人は、無表情です。
が。
『……………………あー、【地獄の焔】』
ごおおっ!!と現れた炎は、あっという間に街をひとつ消してしまいました。
ペンペン草も残っていません。
なんっっにも残っていません。
大きなため息を吐いた茶髪の商人が半目で黒髪の商人を恨めしげに見つめました。
『ちょっと魔王様!またですか!?いい加減にして下さいよ!俺ら人間を滅ぼしに来たんじゃないんですよ!?』
『うるさいベルゼブ!どいつもこいつも、話しかけた途端に大笑いしやがって!』
『だから~、もういい加減にして下さいってば……』
『友好的に!人界出身魔界の英雄タゴサクの口調で話しかけたのに!なぜあのように嘲笑されるのだ!』
『タゴサク様は辺境の育ちだって言ってたじゃないですか。魔界だって辺境では訛りがあるでしょうよ。同じじゃないですか~』
『魔界の農業技術の祖だぞ!タゴサクは!』
『そうですよ。オークの村にうっかり迷いこんで、背負い籠に入っていたトマトを差し出したら物凄く美味しくて気に入られ、オークにトマト作りをレクチャーし、さらに他の野菜までも美味しく育てる技術を教え、魔界中に広めた大英雄ですよ。もはや魔界じゃ子供でも知ってますとも』
『そう!美味しい野菜に感動した我々は毎年野菜を作り過ぎな事もあり、今年は天候不順で不作だという人界に寄付するべく準備をしてる知らせを持って来たというのに!何なんだあの態度は!』
『だから~、魔王様は人界でも超絶美形だそうですから、タゴサク様の真似は無理があるんですよ~。もう普通に喋ったらいいじゃないですか』
『くっ!友好の証にと覚えたのに!』
『それよりも、人界で困った事があったら手助けして欲しいっていうタゴサク様の遺言を守る方が大事でしょう? このままじゃ助けるどころか滅ぼしちゃいますよ?』
『ぐぬぬぅ……タゴサクの訛りを馬鹿にする奴らは滅ぼしても構わぬとは思うが、タゴサクとの約束を破るわけにもいかぬ……』
『タゴサク様、人界じゃあまったく知名度ないですもんね。好い人なのに……』
『あぁ、悔しい程に誰も知らんようだ。タゴサクの村の人間だけだったな、何も分からずとも友好的だったのは……』
『フフフ、タゴサク様がたくさんいらっしゃるようで楽しかったですね~』
『そうだったな……』
『あ!あんまり遅くなると蕪の種蒔きに間に合わなくなりますからね、ちゃっちゃとやりましょう』
『蕪!今年もポトフにしてもらおう!』
『はいはい』
そうして結局のところ、懲りずにタゴサク語で話しかけた魔王は人界の三分の一を焔で消し、これではイカン!と魔界からも慌てて飛んできた部下たちにこってりと絞られました。
ちょっとだけ反省した魔王は、もう人界の誰にも声をかけずに持ってきた野菜を家々の軒下に置いていくことにして、そして魔界へ帰って行きました。
人界では、不作の年は軒下に野菜が現れると、不可思議な事が起こるようになりましたとさ。
おしまい。




