魔法使いの言い分
「魔法使いが卑怯でなくてどーする!!」
ギルド併設の食堂にて、魔法使いが大声をあげた。
だが、常に騒がしい場所なので誰も注目せず、大声を上げた本人も周りを気にしていない。大きな独り言だった。
「だからアンタはモテないのよ」
若い魔法使いは仲間である冷静な女戦士に心臓を抉られ、メンタルにも大ダメージを負った。
「おま、お前それ禁句だぞ!」
瀕死になり反論するも涙目である。
「禁句って、事実だと認めているんじゃないの」
女戦士は魔法使いなど見ず、大盛パスタを美味しそうに食べる。
「事実だからそっとしておいて欲しいんです……」
肩にキノコが生えそうな雰囲気になった魔法使いは、ハッと顔をあげた。
「いやいや!俺のモテより生活費!弟妹を立派に成人させるまで稼がないと!」
「あんた、二言目にはそれだもんね。男に見られてないよ?」
「…………お前はもっと相手の立場でものを言え……」
「真実を確認したいのかと思って」
「……うん、それがお前の良いところで駄目なところだよ……」
そう言いながら魔法使いは女戦士の食べっぷりをぼんやりと眺める。若干胸焼けだ。
「まずな、男女の違いがあったとしても俺はお前のようには大盛りを食べられない。一人前でわりと満足だ。人生のほぼ全てを魔法研究に注ぎこんだ弊害だ、魔法使いにはこのタイプが多い。ここまでは分かるか?」
「うん。研究に没頭し過ぎて何度も餓死しかかったとか信じられないよね。トマトソース大盛り追加~!」
大盛り食って大盛りをお代わりだ!?と慄きつつも相手が食べていないうちにと話を進める。
「胃が小さいから基本体力が一般人からそれ以下だ。それでも戦闘に参加できるのは後方支援として有効だから。パーティーに魔法使いがいた方が楽だろ?」
「うん。それは分かるよ。でもあんたは魔法以外にも口出しするじゃない?」
「そりゃするさ。敵の攻撃を受けるのは前衛であるお前たちの方が多い。スタミナもパワーもあるお前たちがいなければ、体力もやしの俺のような魔法使いはあっという間に死ぬ。魔力が切れたら逃げ切る体力もないからな」
改めて情けない話だが真実である。
「もちろん回復役もいるから、すぐに全滅する心配は無い。だが、魔法力ポーションも体力回復ポーションも一度にたくさん使うと効きにくくなる。だからそこら辺も含めて遠くまで多く狩りに行く時はその事を考えなきゃならん」
店員がドンとテーブルに置いて行った大盛りパスタを見て胸焼けした魔法使いは、なんとか話を続ける。パスタをロックオンした女戦士にこいつちゃんと聞いているかな?と思いつつ。
「行きついて終了じゃない。ギルドに討伐証明を提出して、報酬を受け取るまでが仕事だ」
この魔法使いと付き合いの長い女戦士はパスタを食べながら相づちを打つ。
「新人が俺に反発するだけで済むならいいんだよ。実力を過信してるのが一番困る」
パーティーを組むというのは、力を合わせて事に当たるというのが大前提になっている。能力の違う者同士が戦略の多様性を生かす。その効果が事実かどうかは、古くはおとぎ話にも残っているし現在もその有用性はその職に就く者が実証済みだ。
仲良しこよしで組む者たちはいい。仲間の怪我に敏感なので自分らの実力を試しながら進む。
怪我が多いのは一攫千金を狙った実力未知数の新人だ。
怪我だけで済めばいいが、あっさりと命を落とすこともある。
教会に行けば蘇生してもらえるが、料金は発生する。
蘇生はお高い。
駆け出しの、ろくに装備も揃っていない若造が有り金以上の料金を払ってその借金を返す為にまた飛び出す。
その悪循環の解消のために、ギルドから指名された先輩が新人パーティーに付くことになっている。
コツコツと経験と貯金をしていくのが一番の近道だと教えるのだ。
「そういう新人は大抵が雑だ。男も女も無い。成人してるくせにまずは規則正しい生活習慣から覚えさせなきゃならんとはどういう事だ!」
研究に没頭し過ぎて餓死しかかる奴には言われたくはないだろうが、冒険者とは体が資本だ。健康で丈夫な事が売りなのに、親元を離れると途端にダラケる。
まあ、急に入った大人の世界は誘惑が多いので生活が乱れるのも仕方ない。
が。二日酔いとパーティーを組まされる方は堪ったものではない。
討伐に加え、酔っぱらいの介護までさせられた上に、報酬は厳しく人数割である。やってられるか。
そうして真面目な冒険者たちはよそのギルドに移っていくのだ。田舎ギルドには大打撃である。
魔法使いはこの街の出身で家族がいる。農民の家の突然変異である魔法使いは己の勉強のために苦労した両親を見ているので、討伐での稼ぎをほぼ全額家に入れている。おまけに歳の離れた弟も妹も魔法の才はなかったが誰に似たのか頭脳明晰、今は都会の全寮制の学校に行っていて、魔法使いは両親と共に二人の将来を楽しみにしている。
「ゆえに俺は簡単には死ぬわけにはいかん。だからパーティーメンバーを死なせないために必死になる。それをあいつら…………言うにこと欠いて、俺をオカン呼びとはどういう事だ!せめてオトンだろうが!」
問題はそこかい、と女戦士は思った。よく頭が働く弊害がここにもあった。
「いやいや、戦闘中の小言はまあしょうがないとは思うけど、やれ野菜をたくさん食えとか、夕飯は日の入りまでに済ませろとか、毎日風呂に入れとか洗濯しろとか早く寝ろとか、シャツの裾をきちんとしまえとか、母親並みなのがあんたがモテないところ」
魔法使いはメンタルを一刀両断された。
「戦闘だって、獲物が格下でも全力展開じゃない。いたぶっているようなアレはちょっと嫌だわー」
「格上の魔物に遭遇した時の連携が楽だろ! それで新人の死亡率が下がるなら、俺は卑怯と言われようとこのやり方は変えん! むしろ卑怯と言われて上等だ!」
こういうところがちょっと格好いいんだけどね~、涙目だけど。と女戦士はパスタを食べる。
実際のところ、彼と組むのは生還率が高い。この周辺のギルド内ではダントツである。しかし、こういう理由で新人とケンカ別れになることが多い。
付き合いの長い女戦士がフォローすればいいのだが、向き不向きに忠実な彼女は何もしない。
それに、離れた新人たちがよそに行った時に初めて彼に感謝することはギルド長から伝え聞いている。
知らぬは魔法使いばかりなり。
そして今日もまた彼は新たな新人たちに「オカンか!」と言われるのだった。
おしまい。




