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お題【円】


 水面近く。すっと留めた指先にはめたリングから乾いた音がカシュッと吹き出す。と同時に水面に波紋が幾重にも刻まれ、それは文字通り水面に刻まれる。水の表面に刹那浮かんだ同心円を薄く凍りつかせたのだ。水槽の縁にとりつけたLED照明の冷たい光の下で、そうして止まった時間が不変をじわじわと放棄し普遍の法則の中へと還ってゆく。最後まで残った幾つかの円のラインが恥ずかしそうに水の中へ沈んで消えるのだが、何回かに一回、円は壊れずに円の形のまま水没する。それがまた妙に良い。

 本来は腹腔鏡と共に使うための医療器具。それを改造しようと思ったきっかけはスカートをめくろうだなどという邪な理由だったが、気づけば芸術とも呼べる領域にまで辿りついていた。そうか、スカートの中は芸術なのか、などと徹夜続きでおかしくなったテンションの隙をついて欠伸が襲う。

 カシュッ。

 右目に鋭い痛み。そして顔を覆う自分の手に気づく。咄嗟に傍らの水槽を覗き込むと私の顔から何かがゴソリと落ちて水面に大きな波紋を作った。水面に大きく浮かんだ円がひとしきり乱れた後、水面にぷかりと浮かんだ球形の中央、黒い小さな円が僕をじっと見つめた。


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