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お題【一夜の宿】

 周囲の光が青みを増す。もうそんな頃合いかと男は天を仰ぎ見る。遥かなる高みに大きく輝く月は、前回青みを増した時よりもわずかに欠けていた。しかしのんびりと見とれているゆとりはない。この美しい青白い光に魅入られていると自分の影がどんどんと薄くなってゆくのだ。自分自身が光の中に溶かされてゆくような気さえする。しかもそれが妙に心地よくて……男は頭を振った。この光から逃げないと。そのおぼろげな記憶を辿り始めた。

 漆黒の洞はすぐに探しあてることができた。宙空に浮かぶ幾つもの不思議な洞。男を惑わすように位置を変えるものもある。男は洞を追い、その中の一つへなんとか飛び込んだ。洞の中は狭いのだが、光はこの中へは入ってこない。男はうずくまり自分に言い聞かせる。これで大丈夫、少しの間だけは。

 男が静かに洞の入口を眺めていると、外の光が青みを失い始めた。と同時に洞の入口も左右から閉じられてゆく。男は慌てて外へと抜け出した。まだ青さの残る光だが、男を魅了するほどの魔力はもはやない。男は天を仰ぎ見る。あの月はもう49回も姿を変えた。もうそろそろ楽になりたいと、男はため息をついた。

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