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新たな国で

すみません、長らく放置してました。

 車輪が踏む土の感触が変わった。

「ここからは街道っすよ。舗装された道ッすから少しはマシになるっすよ」

 ナイジェルが勇真に声をかけた。勇真は馬車の中でへたばっていた。

 車酔いで。

 獣道のような道なき道を走ってきたせいですでに返事もできない。

「……少しいったら止めるっすよ。それまで我慢して欲しいっす」

 情けないと勇真は心の中で泣いた。


 街道沿いの大木の木陰で勇真は休んでいた。ナイジェルが水の入ったコップを差し出す。

「水持ってきたっすよ」

「ありがとう」

 勇真はそれを受け取って喉に流し込んだ。

 馬には乗れない馬車には酔う。情けない――生活環境が違いすぎるのだから仕方ないとはいえ、こんな醜態を晒す自分は勇者というにはあまりにも無様だ。

「そんなに落ち込むことないっすよ。ユーマ様の世界では馬に乗れなくて当たり前なんすよね。こっちの世界でも乗れない人は乗れないっす。これから覚えればいいんすよ」

「……覚えることがたくさんありそうだな」

「この道沿いに進んだら村があるそうっすよ。そこで勇者として認定貰うっす。そうしたら便宜を図ってもらえるんすよ。とりあえず神気を纏うことを学んで欲しいっす――うちの国じゃあ学べないことっすから」

 神気は神の加護だ。神に見放された国で学ぶことは到底できない。しかし神気を纏えてこそ勇者なのだ。

 勇者は瘴気を浄化するもの。

 桁違いの神気を纏える器――そういわれても、そんなものがない世界から来た勇真には実感がない。

 できるだろうか?

 まだ酔いのおさまらない勇真には不安だった。

 だが、投げ出すわけにはいかない。

 勇真が使命を果たさねば麻里も元の世界に帰れないし、何よりも命を懸けて勇真について来てくれたナイジェルを裏切るわけにはいかない。

 他国に行く――素性を知られるだけで命がないというスタンレイの血筋のものがそこまでの危険を犯すのだ。


 馬車は街道を走り村に着いた。

 ゲームに出てきそうな素朴な木造の建物がぽつりぽつりと立っている。

 もう日が暮れかけていた。

 ナイジェルが村人を見つけてたずねた。

「すいません、この村の教会はどこっすか?」

「なんだ、見かけない顔だな。兄ちゃん達、他所から来たんかね」

「そうっす。自分の生まれたとこには権威のある教会がなかったもんで」

「ほ~遠くから来なすったんだね。教会なら、ここを真っ直ぐ行くと見えてくるよ。教印が見えてくるはずだぁ」

「助かったすよ」


 教会はすぐに見つかった。フィニアのいた教会と似ている。元は同じものだったのだろう。

「ここっすね」

 ナイジェルが馬車を止めた。教会の敷地内の木に綱を結わえる。

 勇真は馬車を降りて、地面に足を下ろしてほっとした。

「当教会になんの御用でしょう?」

 教会の神官らしい人が声をかけてきた。

 勇真が振り返るとその人ははっと息をのんだ。

「自分達はとある地方からまいりました。この方は――」

「勇者様であらせられますね」

 その人は感激した様子で続けた。

「当教会に足を運ばれるとは、嬉しい限りです。神の愛児たる勇者様、よくぞおいでくださいました」

「え?」

 名乗る前から勇真が勇者であることを見抜いたようだった。

「ある程度修行を積んだ神職の人には神気が見えるんすよ。器の大きさでわかったんじゃないっすか?」

 こそこそとナイジェルが耳打ちした。

「おっしゃるとおり、この方は勇者なんす。けど、うちの村には権威ある教会がなかったんで、ここまで認定してもらいに来たんすよ」

「それでしたら、近くの町でしてもらった方がいいでしょう。そちらの方が大きく権威があります。よろしければここで一泊なさって明日の朝早く発たれれば昼前にはつきます」

「泊めていただけますか」

「もちろんです。勇者様に奉仕できるとは光栄でございます」

 深々と頭を下げられ、勇者たる自覚のない勇真は居心地悪かった。


「――は―――のことばかりだな」

 ――に笑われた――は苦笑した。

「当然だ。早く魔王を倒して―――のところへ帰りたい。帰ったら結婚するんだ」

 ――は肩をすくめた。

「××なら、王族とでも婚姻できるのだがな」

「関係ない。愛しているのは―――だ。いくら××でも、ただの男だよ、俺は」

「―――はきっと幸せになれるな」

「俺がするんだよ」

 二人は声を揃えて笑った。

 夜営のためにたいていた火がはぜた音を立てた。


 なにか夢を見たのだが――内容を覚えていなかった。

 なのに、目覚めたら泣いていた。

「あれ?」

 なにか――大事なものの夢を見たような気がするのだが――思い出せずしばらく涙が止まらなかった。


 勇者として日が浅くまだ神気の使い方がわからないと説明すると、町の教会には神気を纏うことの出来る騎士がいると教会を預かる神職の人が教えてくれた。

「ありがとうございます」

「いえ。これも我らの勤めであります。これは必要ないかもしれませんが、紹介状を書いておきました。あちらで便宜を図っていただけると思います」

 ナイジェルが紹介状を受け取った。

「あなたも神気を学ばれるのでしょう。がんばってくださいね」

「あ、自分は無理なんすよ。神気なんてとてもとても」

「そうですか?」

 神官は怪訝な顔をした。

 丁寧に礼をいい、勇者一行は旅立った。

 それを見送った神官は首をひねった。

「あれほど神気をまとっておられるのに、学ぶ気がないとは残念ですね」

 彼の見たところナイジェルと呼ばれていた青年は勇者ほどではないが、普通の神気を纏えるものよりも加護を受けているように見えたのだ。

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