第9話 悪魔の鎮魂歌
「ひっ……ぐぁっ!?」
美琴が少し指に力を込めただけで、鋼鉄化していたはずの翼がバキバキと音を立てて歪んでいく。
「舐めるな……ガキがぁっ!!」
男――明平は激痛に顔を歪めながら、美琴の手を強引に振り払って後方へ跳んだ。
(これであいつは落下――って、なぜ飛んでいる……!?)
手を離したというのに、美琴は当然のように空中に佇んでいた。
羽ばたく素振りすらなく、まるで平地に立っているかのように空間に浮かんでいる。
明平はその異常な光景から、意識的に思考を背けようとした。 目の前の少女が、存在することすら稀な
『幻獣種』であるという最悪の可能性から――。
だが、まだ勝算はある。 自分たちのチームには、あと二人残っているのだから。
「明平、どうやら苦戦中みたいだね?」
上空から声をかけてきたのは、背中に巨大な皮膜の翼とトカゲのような太い尾を生やした男だった。
『獣人種……翼竜【プテラノドン】』の古川。このチームのリーダーだ。
「大丈夫ですか? 明平先輩」
そしてもう一人、ホウキにまたがって優雅に空を飛ぶ少女――『自然種……【魔女】』。
「君……初日から随分と派手にやってくれるじゃないか」
古川はじっと美琴を観察し、ふっと蔑むような笑みを浮かべた。
「……差し詰め『獣人種』のコウモリか何かだろう?」
――戦いにおいて、相手の力量を見誤ること。それは即ち『死』を意味する。
「――“奇跡”【古竜咆哮】!!」
相手が『獣人種』なら油断は禁物だ。 古川は理力を持たない分、爆発的な魔力で自身の身体能力を引き上げる。さらに“奇跡”によって全ステータスを底上げし、はなから全力で美琴を押し潰しにかかった。
もし、美琴がただの【獣人種】であったなら、この判断は正解だっただろう。
――美琴が、【獣人種】だったならの話だが。
「誰が……【獣人種】だって?」
冷ややかな言葉が落ちる。
――“奇跡”《悪魔の鎮魂歌》
美琴の“奇跡”は、完全なる破壊と闇のエネルギーの顕現。 その一言が古川たちの耳に
届く前に、圧倒的な悪魔の一撃が解き放たれた。
『――《魔物の行進》』
美琴の背後に、空間を埋め尽くすほどの多重魔法陣が展開される。
直後、解き放たれたのは理不尽なまでの破壊的殺戮エネルギー。止むことのない黒銀の魔弾が、嵐となって空を焼き尽くす。
ほんの数秒。
攻撃が止み、立ち上る激しい煙が晴れた時には――古川たち二人も完全に意識を失い、人形のように地面へと落下している最中だった。
パァン、と眩い光が弾け、彼らの身体が待機室へと強制転移していく。 ピコン、と手元のスマホ端末から、合計【+25ポイント】(リーダー10pt+メンバー5pt×3)の獲得通知が響いた。
皐月が苦笑しながら声をかけると、美琴は何事もなかったかのようにニッと笑ってみせた。
「「……え?」」
一瞬でプロ(上位チーム)を全滅させた光景を目の当たりにし、明日香と星羅は口をポカーンと開けて呆然と立ち尽くしていた。
「???? え、あ、え?」
「はぁ……?」
状況の凄まじさに全く頭が追いついていない二人を見て、皐月は「だから言ったのに~」とやれやれ顔で溜息をつくのだった。
「ちっ……あいつ、私のことコウモリ呼ばわりしやがって……」悪態をつきながら、美琴が空中からゆっくりと降りてくる。
「お疲れ様、美琴。まぁまぁ、怒らないでよ。取り敢えず初戦は何とかなったね」
皐月の言葉に美琴は静かに頷く。
“奇跡”悪魔の鎮魂歌
美琴の“奇跡”その本質は究極の破壊エネルギー。
ただし技の威力が規格外すぎるため「周囲の地形ごと街を吹っ飛ばしてしまい、味方まで巻き込む」危険がある。
美琴自身が『存在そのものが能力の塊』であるため、出力を抑えて手加減すること(1%刻みの調整など)が極めて苦手。だからこそ、普段の小競り合いでは奇跡を使わず「素手」で殴る方が安全である。




