第8話 初戦
(ここ……!!)
転送が完了した瞬間、星羅が真っ先に気付いたのは――転送先が「上空」であることだった。 美琴と皐月は『幻獣種』であり、背中に翼を持つため空を飛ぶことができる。だが、明日香と星羅はただの人間種だ。この高さから落ちればただでは済まない。
「明日香!! 足場を作って!!」
「っ《紙貼》!!」
星羅の叫びに反応し、明日香は咄嗟に自分たちの足元へ約60cm×60cmの「光る紙の足場」を展開した。 そのままゆっくりと高度を下げ、地面へと着地していく。その横を、美琴と皐月が優雅に舞い降りてきた。
「ふふ、二人とも流石の対応力だね」
地面に降り立ち、皐月が感心したように頷く。
「さてと。このまま取り敢えず『非戦闘エリア』を目指そうか。道中、勝てそうな相手と会ったら倒してポイントを稼ぐ」
「けど、勝てないと悟ったらすぐに逃げろよ?」
美琴が周囲を見渡す。降り立ったのは、どうやら打ち捨てられた市街地のメイン通りの真ん中らしい。いつ敵に見つかってもおかしくない場所だ。
「……誰か来る」
星羅がハルバードを構え、即座に戦闘体制をとる。その言葉に反応して、明日香も手元に紙を準備し始めた。一方、美琴と皐月は特に警戒する様子もなく佇んでいる。
「おや、バレちゃったか」
ビルの陰から一人の男が姿を現した。背中には一対の鳥のような翼が生えている。
(恐らく、獣人種の鳥系統……)
星羅が冷静に相手を分析する。すると、もう一人、ビルの屋上からしなやかに飛び降りてくる影があった。 腰まで届く艶やかな金髪に、人間よりも長く尖った耳。
「この大会には企業や大学のプロも出場してるの。怪我したくないなら、大人しく辞退して帰った方が
いいわよ」
(エルフか~)
高飛車な態度の女エルフを見上げ、皐月は目を細めて内心で呟く。
「いいの? こっちは4人で、そっちは2人だけど?」
明日香が少し強気に挑発するが、相手も手慣れた様子で鼻で笑い、受け流した。
「大丈夫だよ。君たちを一人ずつ相手にする必要なんてないからね」
翼を持つ男がそう言うと同時に、身構えた。
――“奇跡”【鋼鉄の翼】
瞬きする隙すらなく、男の背中の羽が黒銀の鋼鉄へと硬質化する。殺気を孕んだ視線が明日香たちへ向けられた。
「二人とも下がりな。……あいつは私が相手するよ」
美琴が軽く肩を回しながら前へ出た。
直後、空間そのものを圧迫するような暴力的かつ圧倒的な『理力』が、美琴の全身から噴き出した。
《――悪魔の讃美歌》
――自然種は『神秘』の保持率が高く、『理力』の精度に優れる万能型。 ――獣人種は身体能力を爆発させる『魔力』が全種族でトップクラス。 ――人間種は理力・魔力・神秘のバランス型。
――では、『幻獣種』はどうなのか?
ドンッ!! と重厚な打撃音が響き渡る。 美琴は“奇跡”の発動術式すら唱えず、ただの素手で、男が放った鋼鉄の翼の突進を真っ向から受け止めていた。
「お〜、思ってたよりは硬いじゃん」
美琴がニヤリと不敵に笑う。攻撃を受け止められた男の顔が、驚愕で引きつった。
(な、なんだ今の圧力は……!? 人間種じゃない……!? いや、それ以前に……あいつ、“奇跡”を使ってすらいないぞ!?)
――そう、答えは単純。 『幻獣種』とは、存在そのものが“能力”の塊。存在の構成要素すべてが純粋なエネルギー体なのだ。
「ねえ美琴、ズルい! 僕だって戦いたいんだけど!」
獲物を横取りされた皐月が、頬を膨らませて美琴をジト目で睨みつけた。
「……だったら明日香。私たちはあっちを相手にしよう」
星羅がエルフの方に目をやる。
「舐められたものね……『炎熱の――』」
女エルフが大技を唱えようとしたその瞬間、星羅が動いた。
『――【星宿運命】出力20%』
一瞬で間合いを詰め、ハルバードの牽制を繰り出す。
(はやっ……!? なぜ攻撃を打ち切らずに引くの……!? カウンターを恐れてる……? いや、まさか!)
驚愕するエルフの視線が星羅に固定されたコンマ数秒の隙。
「《飛燕》っ!!」
明日香の声が響く。先ほど自分たちの足場にした《紙貼》を再利用し、鋭い刃としてエルフの死角から打ち出したのだ。星羅による『誘導』は見事に成功した。 直撃を受けた女エルフは、叫び声を上げる暇もなく吹き飛ばされてビルの壁に激突し、その場に崩れ落ちた。パラパラと砂煙が立ち上る。
「あ……あっちも終わっちゃった。僕の出番、本当にないじゃん……」
口を尖らせて皐月が愚痴をこぼす。
一方、美琴は男の鋼鉄の翼を片手で掴んだまま、冷ややかな視線を送っていた。
「ねぇ? その技、いつまで続ける気?」




