第7話 オンステージ開幕
大会前日――。
「というわけで、二人ともこの1ヶ月で随分仕上がったね~」
グラウンドに倒れ込む明日香と星羅を見下ろし、美琴がぐっと気持ちよさそうに背伸びをする。
「は、はぁ……はぁ……っ」
赤土の上に大の字で倒れ込んだ明日香は、焦点の合わない目でぼんやりと空を見上げていた。肩を激しく上下させ、声を出すことすらまともにできない状態だ。
隣に倒れている星羅も手足に擦り傷を作り、うっすらと血を滲ませている。あの冷静な星羅がここまでボロボロになるほどの、過酷を極めた1ヶ月間の特訓だった。
一方、二人を極限まで追い込んだ美琴は、汗ひとつかかずに涼しい顔をしている。
「だね。特に明日香ちゃんの実力の伸びは本当に凄かったよ」
皐月がグラウンドのベンチに寝転がり、パタパタと羽を揺らしながら会話に混ざる。
「もちろん、星羅ちゃんも見違えるほど動きが良くなってる。これなら本番でもバッチリだよ」
「さてと……今日のところは帰って、明日に備えてしっかり休むとしようか」
◇
大会当日――異能競技大会・国際競技場。
「す、凄い人数ですね……っ」
総勢1000人を超える会場の熱気に、明日香はその多さに目を丸くしていた。超巨大なスタジアムには巨大モニターが幾つも設置され、熱狂的な観客の歓声が地響きのように響き渡っている。
「今回の出場チームは約300チーム。人数にして約1200人以上か……」
皐月が手元の特殊な端末――大会から選手一人ひとりに支給された専用スマートフォンを操作しながら呟く。
この端末は、大会中の情報伝達や運営からのメッセージ受信はもちろん、戦闘不能または降参した瞬間に、選手を自動で安全な待機室へ転送するシステムが組み込まれている優れものだ。
それを聞いた際、明日香が「え!? 転送術式ですか!? すごーい!!」と子供のように興奮してはしゃいでいたのは、また別の話である。
「さてと……エントリーも無事に終わったし」
「開始まであと10分だね」
美琴と皐月はいつも通りリラックスした様子だが、星羅――そして特に明日香はガタガタと膝を震わせていた。明日香に至っては緊張の限界を超えて、妙な幻覚や幻聴すら聞こえてきているらしい。「これはもう重症だな」と、星羅は声を掛けるのをそっと諦めた。
だが、そんな星羅もまた、胸の奥で静かに青い炎を燃やしていた。
この1ヶ月の特訓を経てもなお、自身の決定的な弱点を完全に克服することはできなかったのだ。だからこそ――星羅はこの大会の中で、自身の真の能力【星宿運命】を完成させることを、ひとつの密かな目標に掲げていた。
「――間もなく、『全国国民体育大会 異能競技の部』を開始します。全選手は転送ゲートへお進みください」
アナウンスがスタジアムに響き渡る。
いよいよ、彼女たちの「戦い」の火蓋が落とされようとしていた。




