第6話 結果として……
(……あり得ない)
星羅は自分の拳を見つめたまま、呆然と立ち尽くしていた。
【星宿運命】出力40%の速度は、音速にすら匹敵する。その速度から繰り出される拳の威力は、並大抵のものではないはずだ。
それを、皐月は片手で――まるで落ちてくる葉っぱでも受け止めるかのように、易々と止めて見せた。
いくら相手が『幻獣種』とはいえ、あまりの規格外ぶりに背筋が凍る。
「あーあ、負けちゃったぁ……」
一方、地面に倒れ込んだままの明日香は、大の字になって拗ね始めていた。 そこへ、上空で戦いを観戦していた美琴がゆっくりと降りてくる。
「いやいや、明日香は十分すごいよ。“奇跡”が開花したばかりなのに、あんなに使いこなせてたんだか
ら」
美琴はそう言って、優しく手を差し伸べた。明日香はむくりと起き上がると、その手を取って立ち上がる。
「だよね~! ねぇ明日香ちゃん、実家って神社かお寺だったりしない?」
皐月が美琴の隣に並びながら、興味深そうに尋ねた。今回の戦闘で見せた明日香の“奇跡”の精密なコントロールと直感力に、皐月はひとつの確信に近い疑問を抱いていたのだ。
「えっと……私のおばあちゃんの家が神社ですけど……」
明日香が不思議そうに首をかしげる。 自分の全力を受け止められたショックをどうにか押し殺し、星羅も二人の方へと足を進めた。
「……先輩、神社やお寺が何か関係あるんですか?」
「うん。お寺や、特に神社には『神への祈り』の作法があるでしょ? 実はあれと、“奇跡”を行使する時の感覚って、すごく似ているんだよね」
その言葉に、明日香だけでなく星羅も驚きに目を見開いた――。
「まあ、原理はちょっと違うんだけどね。ただ“奇跡”っていうのは、使う人の感情や精神状態によって出力や精度が変化するものなんだ」
「だから、同じように『想い』を込める神社の祈りと、感覚的に似たような部分があるんだよ」
そう言って、皐月は足元に落ちていた枝を拾うと、グラウンドの土に簡単な図を描きながら美琴と皐月が交互に説明する。
「……」
星羅は無言でその図を見つめていた。
彼女にとって“奇跡”とは、生まれた時から呼吸するように当たり前に行使してきたものだ。
だからこそ、「祈り」だとか「気持ち」といった不確定な要素が“奇跡”の精度に関係しているという説は、理知的な星羅にとってどこか受け入れがたいものだった。
そんな星羅の思考を破るように、明日香が手を挙げて問いかける。
「あの、先輩。それよりも、わざわざ私と星羅ちゃんが戦う必要ってあったんですか? 大会がサバイバ
ル形式なら、制限時間までどこかに隠れていれば、戦わなくても勝ち残れるんじゃないですか?」
明日香の至極まっとうな疑問に、美琴の動きがピタリと止まった。
「……皐月」
「ハ、ハイッ」
「……一番重要な説明、抜けてるよね?」
美琴が般若のような笑顔でじりじりと皐月に近づいていく。あからさまな怒りの気配に、皐月はひぃっと悲鳴を上げて2、3歩後退りした。
(え……美琴先輩も説明のとき居たじゃん)
明日香がそう内心で思ったのはまた別の話。
「えっとね! 実は大会の勝敗は、最後まで生き残ることだけじゃなくて『ポイント制』なんだよ!!」
皐月は慌てて地面に新しい図を書き殴りながら、早口で説明を始める。
「大会は1チーム4人制。スタート時、リーダー以外の3人はそれぞれ【5ポイント】を所持した状態で始まるんだ」
「……リーダーは?」
星羅が尋ねると、皐月は冷や汗を拭いながら頷いた。
「リーダーは最初から【10ポイント】持ってるよ。そして、敵を倒すとその相手が持っていたポイントが自分のものになる。最終的に、チーム全員の『合計ポイント』で勝敗を決めるってわけ!」
「……つまり、逃げ隠れだけじゃ絶対に勝てないってことですね」
「そうなるね」
皐月は地面に描いた絵を足で消して立ち上がる。
「……ちなみに先輩方は、大会で本気で戦わないんですか?」
星羅が二人を交互に見つめると、皐月と美琴は顔を見合わせ、苦笑いを浮かべた。
「まぁ~ね。僕達が本気で戦ったら……このモデル都市どころか、学校ごと潰れちゃうかもしれないし」
「が、がえ……!?」
明日香が口をポカーンと開けて、二人の会話を聞いていた。
「……幻獣種っていうのはね、それほどまでに規格外で、狂った存在なんだよ」
(……だからといって、私の拳を……)
先ほど受け止められた拳を見つめながら星羅はある事に決意した。
『(大会までに【星宿運命】を完成せる)』




