第2話 動き始めた歯車
パササッ、と空気が弾ける音とともに、彼女の目の前に光り輝く巨大な「折り紙」の障壁が展開される。 迫り来る触手を完璧に受け止めたその眩い輝きに、男は驚愕で目を見開いた。
「え……? これ、私の……?」
自分の手を見つめる明日香の瞳に、芽生えたばかりの強かな光が宿る――。
「少々驚きましたが…今、開花させたばかりの小娘に負けるわけありません」
先ほどよりも鋭く早く、明日香に向かって触手が襲い掛かる。
「がはぁ……!!」
“奇跡”の開花後、すぐに“奇跡”を扱えるものは少ない。理由は単純である。
エネルギー――主に“奇跡”や、それを応用した“術式”の使用には『理力』『魔力』『神秘』『神力』『深淵』といったエネルギーが必要となる。 開花したばかりの者がこれらをいきなり扱うのは、半袖・半ズボンでエベレストに登るようなものだ。
「お、お姉さん」
吹き飛ぶ際に少年を庇ったことが原因で明日香は肋骨に幾つかのヒビが走った。
「ゲホゲホ、大丈…」
血を吐きながらもゆっくり立ち上がるそのコンマ1秒に近い時間明日香の目の前にはすでに鋭利な刃となった触手が迫ってきていた……
ドゴオオオオオオオオーーーーー!!
何かと何かがぶつかる音が辺りに響く。明日香の目の前に居たのは青髪ロングでブルーサファイア色の目をした少女…
「ねぇ?なんでさっき飛び出したの?」
少女は静かに問う。何故なら明日香の行動は少女にとっては理解不可能なものだったからだ。わざわざ力もないのに人を助けて何があるのか。
「え、えっと…見ていられなかったから」
明日香は何も考えずその時思ったことをそのまま口にした。
「へぇ…理由あるんだ」
少女は予想外の答えに笑みを浮かべた。
「何ですか?また増えたんですか……くくく、無駄なんですよ!!」
再び触手男が攻撃を仕掛ける、その刹那
「ここは私に任せて」少女の周りに青白い閃光が走った。
“奇跡”『星宿運命』
青白い閃光が放たれると同時に触手男が地面にめり込んだ。後ろには少女が立っている。圧倒的だった。先ほどの触手男のコンマ1秒の攻撃。これを優に超えるスピードで少女は動いた。少年も明日香も何が起こったのかわからず口を開けたままで魚が口呼吸するようにパクパクしている。
「…え?」
「ふぅ、改めて、私は雨山星羅。あんたは?」
「え、あ、宙海明日香……」
「あんた、緑ヶ丘でしょ?」
「なんで?」明日香が少し警戒する顔で星羅を見る。
「その制服。私も同じ県立緑ヶ丘高校だから」ニカと笑い星羅は返す。
【これがこの物語の始まりである】。
数週間後
「ねぇ?明日香あんた、異能競技部に入ったの?」
お昼休み。購買で買ったパンを頬張りながら明日香の方を見る。
「うん。“奇跡”があったらやってみたいなって思ってたから」
指をもじもじさせながら明日香が恥ずかしそうに答える。
「ふーーん」
「星羅ちゃんは入らないの?」
「一応入ってる。けどほとんど行ってない」そう言い頬杖をつく。
「なんで?」
「先輩が2年2人しか居ないから…会ったことないけど」
牛乳をストローで吸い空になったパックをゴミ箱に投げる。それが見事に入り星羅はガッツポーズする。
「じゃあ今日寄って。今日私の歓迎会らしいから」
「……見るだけね」
呆れ顔でそう答えながらも、星羅は自分の変化に少し驚いていた。 かつての自分なら、「部活なんて無駄だ」と一蹴して絶対に近づかなかったはずだ。損得や効率ばかり気にしていた日常に、あの勇敢で不器用な少女が踏み込んできてから、何かが少しずつ変わり始めている。 (……ホント、無駄なことばっかり) 心の中でそう呟きながらも、星羅の唇には自然と笑みが浮かんでいた。
「お邪魔します……」
明日香を先頭に奇跡を使ったスポーツ競技『異能競技部』の部室に入った。中は殺風景で何もない。わけではないがほぼ物置小屋である。室内はべとべとしていて換気されてない。最悪の状況である。
「ねぇ?本当にここで合って、」
星羅がそう言いかけた時背後から2つの気配を感じた。
「合ってるよ、ようこそ県立緑ヶ丘高校、『異能競技部』へ」
振り向くと1人は青白い髪に青い瞳背中には鳥のような羽があり頭には輪っか。その少女の隣にはツインテールで髪と目が紫色で黒色の帽子を被り腰の方から尻尾の様なものが見える。
「僕は副部長の天使の冬空皐月で、こっちは一応悪魔の片橋美琴よろしくね~」
「おい、一応って言うな。立派な悪魔だわ」
美琴が皐月の頭を叩きもう一度、星羅達を見る。
「幻…幻獣種……」
―“奇跡”の出現と同時に世界に広まった概念…種族。世界には主に人間種・幻獣種・自然種・獣人種が存在する―
その中でも幻獣種は他の種族よりもエネルギー量が多くかつ開花する“奇跡”が強力である。




