第18話 圧倒的強者
(……遅い。こいつ、明日香より全然弱いじゃん)
星羅は容赦なく放たれる激しい魔法を軽やかに回避しながら、心の中で冷静に目の前の相手を評価していた。
自身の能力――【星宿運命】の出力はわずか15%。それだけの出力で、完全に相手を圧倒している。
「ねぇ? 本気でやるならさぁ、さっさとやってよ」
絶え間なく押し寄せる攻撃を紙一重でかわしながら、白髪の少女へ問いかける。決して相手を煽っているわけでも、油断しているわけでもない。
ただの純粋で素直な感想。圧倒的強者の余裕があるからこそ、そんな言葉が自然と口から漏れ出てしまうのだ。
「佳子……だっけ。あんたのチームメイト、もう全員負けたみたいだけど? まだ続けるの?」
手に握ったハルバードを一閃させ、星羅が一気に佳子の懐へと肉薄する。
「そんなの……出鱈目よっ!!」
「いや、本当はもう分かってんでしょ?」
佳子の悲鳴のような叫びを冷たく遮り、星羅は手加減なしの鋭い前蹴りを叩き込んだ。
ドゴォンッ!と重い音を立てて後方へ吹き飛ばされた佳子は、そのまま背後のビルに激突し、身体が九の字に折れ曲がる。
魔法すら乗せていないただの物理的な蹴り一発で、星羅は相手を瀕死の重傷まで追いやってみせた。
「……っ、ふざけるな……! 先輩達なら、お前なんか……ッ!」
敗者の遠吠えとも取れる戯言を、佳子は血を吐き出しながら叫ぶ。
「……もういいよ」
星羅の冷ややかな言葉が落ちた。
その言葉が届くと同時に佳子の身体は青い光の粒子に包まれ、その場から綺麗に消え去っていった。
ピコン――。
端末から、無機質な通知音が静かに響く。
『+5ポイント獲得』
◇
「うわぁ……っ、明日香ボロボロじゃん」
戦闘を終えた明日香たちは、非戦闘エリアに指定されている安全地帯の近くで合流していた。
「なんで星羅ちゃんは無傷なの!? 文句言いたくなるんだけど!」
「相手が弱かっただけ」
明日香の理不尽な抗議に、星羅は淡々と短く返す。 そして、周囲を見渡した。
「……先輩たちは?」
「まだ来てないよ~」
明日香はベンチにドサッと座り込み、疲れ切った大きなため息をつく。 時刻は18:40。夕闇が迫る空を見上げながら、星羅はポツリと呟いた。
「……負けたのかな」
冗談めかして口にしたその言葉は、静かな空間の中でしっかりと二人の耳に届いた。
「おめーら、誰が負けたって?」
「やれやれ~、後輩たちがどんどん生意気になっていくね」
バサッと聖なる羽音が響き、ボロボロの美琴を背負った皐月が空から悠々と降り立ってきた。
「お疲れ様です……美琴先輩、本当にボロボロですね……」
星羅は血だらけで気を失っている美琴を見て顔をひきつらせた。
「なのに皐月先輩はピンピンしてるし!」
明日香が呆れつつも、美琴の身体を皐月と一緒に支えながら言う。
「まぁ~ねぇ」
皐月は鼻歌まじりの声で答える。
「早く休むぞ~、今日はもう寝る!!」
夕暮れに染まりながら、4人の影は安全地帯のビル内へと吸い込まれていった。
◇
私立白百合の丘学園が大会2日目で敗退したという情報は、瞬く間に参戦校全体へ広まった。 去年の準優勝校が、これまで何の成果も上げていなかった無名校に敗北したのだ。その衝撃の情報は――
「真理、何見てるの?」
狐耳の少女が、上機嫌に猫耳をピコピコと動かしながら真理に尋ねる。
「月下、面白いよ~。白百合の丘学園が敗退したんだ~」
真理は端末の掲示板を月下に見せる。
「ええっ!? うそでしょ!? どこに負けたの?」
月下は駆け足で真理に近づき、画面を覗き込む。 そこにはデカデカと『昨年の準優勝校、無名の高校に敗北』と書かれていた。
「なになに~?」
黒髪の『獣人種』――犬の耳と尾を持つ少女が、二人の騒がしさにつられて駆け寄ってくる。
「へぇ~……『県立緑ヶ丘高校』か」
「知ってるの? 千夏」
月下が尋ねると、千夏はけろりとした顔で答えた。
「え? 全然知らないけど」
◇
「ねぇ、聞いた?」
茶髪のエルフの少女が、廃ビルの窓台に腰かけている少女に問いかける。
「なにを?」
興味なさそうに、彼女は視線も向けずに答える。
「私立白百合の丘学園が負けたんだって」
その言葉が部屋に落ちたと瞬間、少女の目の色が一変した。
「へぇ……」
口元を歪めるその姿は、まるで獲物を狙う狩人――食物連鎖の頂点に立つ猛獣のそれだった。
「なんで嬉しそうなのよ」
エルフの少女が呆れたように彼女を見つめる。 白髪に、黄金の鋭い瞳。丸っこい獣耳と、先っぽが箒の
ようにフサフサとした尻尾が愉悦に揺れていた。
「まぁ、想定内なんでしょうね……瓢華」
《大会点数総合2位》最強の一角『獣人種』・獅子――国立桜木大学、伊藤瓢華。




