第17話 死闘の末に
煙が視界を覆い、凄まじい熱気が肌を焼く。
半径120メートルに及んだ超膨大な理力の衝突は、街の一角を跡形もなく吹き飛ばしていた。地面は大きく擂り鉢状に抉れ、周囲の建造物は粉々に砕け散っている。
「ハぁ……ハぁ……っ」
深く抉れたクレーターの中心で、美琴は膝をつき、必死に荒い息を吐いていた。
全身の骨が恐ろしい悲鳴を上げ、指一本動かすのすら激痛が走る。完全詠唱による反作用と、限界を超えた理力吸収の代償は重く、視界は赤く滲んでいた。
(倒せ……たのか……?)
ゆらりと立ち上がろうとするが、足に力が入らず、その場に崩れ落ちそうになる。
その時――崩れた瓦礫の山の奥から、青い光がそっと弾ける音が響いた。
煙の隙間から見えたのは、ボロボロになりながらも膝をつく星野美月の姿だった。
美琴は無理やり外部のエネルギーを限界まで吸収した影響で、体内のエネルギー器官(回路)が完全に焼き切れており、理力や神秘の操作が不可能となっていた。
そして美月も同様、《多段式術式結界》の直後に《完全詠唱》を放ったため、体内の理力循環が完全にストップしている。
つまり――いま二人に残された最後の手段は、『深淵』と『魔力』による純粋な身体能力強化の殴り合いくらいだった。
「ふ……っ」
美月が立ち上がろうとした、そのわずかコンマ数秒の隙。
美琴は残された全神経を解き放ち、懐へと一気に潜り込んで渾身の拳を叩き込んだ。
美月も瞬時に殴られた部位へ魔力を集中させて防御を図る。……だが、そのたった一撃が、この死闘の勝敗を完全に決した。
美月の身体が、すでに青い光の粒子に包まれ始めている。
美琴の放った《深淵の黙示録》を直撃で受けた時点で、彼女の耐久値(ポイント判定)は限界を超えていたのだ。
「……ははっ、マジで『幻獣種』って……化け物……」
美月は悔しそうに自嘲気味な笑みを浮かべ、そのまま光の粒子となって消え去った。
ピコン――。
静まり返った廃墟に、美琴の端末から無機質な通知音が響く。
『+10ポイント獲得』
「……勝った、……」
画面を確認した瞬間、張り詰めていた糸がプツリと切れ、美琴の身体が力なく地面へと倒れ込んだ。
見上げる空が、急速に暗くなっていく。意識が遠のいていく。
(ここまで、か……。あとは……皐月、頼んだ……)
限界を迎えた美琴が静かに目を閉じかけた、まさにその時。
バサッ、と頭上で聖なる羽音が響いた。
「まったく……相変わらず派手にやってくれたね、美琴」
降り立ったのは、純白の翼を広げた皐月だった。
皐月は倒れる美琴を優しく受け止めると、その身体に静かで清廉な『神力』をゆっくりと注ぎ込み、急激な自壊をくい止める。
「皐……月……。遅い、ぞ……」
「遅いってなんだ~、これでも急いで飛んできたんだよ。こっちだってまあまあ強い奴と戦ってきたんだからさ」
皐月は苦笑しながら、手際よく美琴の端末を操作し、ポイントの管理と状況確認を行う。
美琴のボロボロな姿を見つめる皐月の瞳に、静かだが確かな怒りと決意が宿った。
「よく頑張ったね、美琴。……あとは僕に任せて、ゆっくり休んで」
「ふん……言われなくても……休む……よ」
皐月の腕の中で、美琴は心から安堵したように深く息を吐き、そのまま静かに意識を手放した。
残された皐月はゆっくりと立ち上がり、空を見上げる。
白百合の丘学園の強力な二人は倒した。
だが、まだ大会は終わっていない。
明日香や星羅の状況も確認しなければならない。
「……さてと、後輩たちはどうかな」
天使の翼を大きく羽ばたかせ、皐月は次なる戦場へと疾風のように飛び立っていった。




