第15話 絶望に咲く花
「(今だ……っ!!)《魔人の大円》――ッ!!」
手に集めた紫色の禍々しい理力を、美月がビルから姿を現した絶妙のタイミングで一気に解き放つ。
収縮された一撃の破滅砲撃が、ビルごと美月を飲み込んだ。
直撃と同時に、激しい土煙と地響きのような轟音が辺り一面を埋め尽くす。
建物の崩壊などお構いなしの全開の一撃。轟音が収まった頃には、ビルは元の原型すら留めておらず、いつ完全に倒壊してもおかしくない廃墟へと変わり果てていた。
勝敗は決した――普通ならそう思うはずだった。
この威力をゼロ距離で喰らって生き残れる人間などいるはずがない。
美琴だからこそ……いや、『幻獣種』たるその圧倒的な強者ゆえの余裕が、今回は裏目に出てしまった。
「《重力壁》」
もうもうと立ち込める土煙を払いながら、完全に無傷の美月がゆっくりと歩み出てくる。
「言ったでしょ? 私は重力を自在に操れる……こんな直線的な攻撃、避ける必要すらないんだよ。けど思ってたより強いんだね」
そう軽口を叩いていた美月の瞳が禍々しく赤く輝く。
それに呼応するかのように大気が激しく揺れ動き、空間そのものが悲鳴を上げ始めた。
周囲に転がっていた無数の瓦礫が、まるで無重力空間のように宙へと浮かび上がる。
重力の理が完全に狂わされている証拠だ。
次の瞬間、美琴の立つ足元を中心に《多段式の術式結界》が展開された。
回避不能。防御不能。直視すら許されない絶対の領域。 生きとし生ける者が決して抗うことのできない、自然の摂理そのものの暴力。 それこそが――重力による超高圧の圧縮殺害。
「さよなら《多段式術式結界・重力崩壊》――ッ!!」
美琴の存在する空間そのものが、メリメリと嫌な音を立てて軋み始める。
ただ一方的に潰されるのを待つしかない、理不尽の極みのような絶対攻撃。
「ぐ……っ、ふざけ……っ」
美琴は全身に理力を循環させて耐えようとするが、それすらも意味をなさない。
どれほど強固な防具を纏おうと、この技は「防御」という概念そのものを貫通して身体を押し潰すからだ。
徐々に結界の範囲が狭まり、美琴の肉体にかかる重力が何倍、何十倍へと増大していく。このまま押し潰されれば、確実に敗北する。
――なぜ、『幻獣種』はそこまで特別視され、恐れられるのか。
理由は単純だ。発現する“奇跡”の質と、体内に宿すエネルギー量が他の人間とは桁違いだからである。
だが、そのエネルギーの性質は『種族』によって大きく異なる。
天の使者である『天使』と、深淵の覇者である『悪魔』。
一般的な人間、獣人種、自然種が扱う理力や魔力に対し、天使種は純粋なる『神力』を体内に秘めている。
ゆえに、天使種は“奇跡”の行使において誰よりも円滑で、清廉かつ絶大な効果を発揮する。
では――『悪魔種』はどうなのか。
彼女たちには、身体能力を補助するような生ぬるい魔力などは存在しない。
その肉体に刻み込まれているのは、より純粋で、より破壊的な不滅のエネルギー――
『深淵』。
(……潰されて、たまるか……ッ!)
絶望的な重力圧殺の中、意識が遠のきかける美琴の脳裏に、あの日の言葉が鮮明に流れ込んできた。
――『“奇跡”っていうのはね、使う人の感情や精神状態によって出力が変わるものなんだ』
皐月が語っていた“奇跡”の本質。
回避不能、防御不能の絶対攻撃。されど――破壊不可能な攻撃など、この世に存在しない。
自分の肉体の内側、魂の奥底に眠る『深淵』の破壊エネルギーを限界までかき集め、美琴は自身の一点へと集中させる。
絶望の圧迫の中で、美琴の瞳に漆黒の炎が燃え上がった。
それは何事も全てを無に帰す一撃。
《深淵の黙示録》
理力は魔法及び技の使用の際に消費される。量が多い種族は『自然種』と『幻獣種』
神秘は”奇跡”の使用の際に消費される。ただ神秘の量で”奇跡”は強化されない。発動までの時間が量で変化する。
魔力は身体能力向上の際に消費される。そのため魔力が多い『獣人種』は身体能力だけだと『幻獣種』にも勝る
神力は“奇跡”の行使において誰よりも円滑で、清廉かつ絶大な効果を発揮する。”奇跡”の強化エネルギー
深淵は純粋で破壊的な不滅のエネルギー。




