第11話 祭りと祀り
『祭具』――それは、特殊な能力が元から備え付けられた伝説の武具。 その起源は千年以上前の平安時代。自然種『鬼』の一族である奈鬼羅家が発祥とされ、そこから日本各地の神社へと『祭具』として広まったとされている。
◇
「ふ~ん、わかる?」
椎奈が手にするのは、漆黒の刀身に真っ赤な宝石が埋め込まれた一振りの刀。その鍔には、神社で見かけるような白い紙垂が揺れていた。
「《飛燕》っ!!」
明日香が放った鋭い紙の刃を、椎奈は「おっと」と軽やかにかわしてみせる。そのまま手に持っていた黒刀をひと振るいすると、激しい轟雷とともに明日香の頭上へ雷光が落ちた。
「げほっ……ぐ、う……っ! やっぱり……本物の『祭具』……!」
赤土の上に倒れ込んだ明日香は、煙を上げながらゆらりと立ち上がり、椎奈を強く睨みつける。 あり得ないほどの威力に戦慄しつつも、明日香が反撃に転じようとしたその瞬間――
「隙だらけ~♪」
「えっ――!?」
椎奈はいつの間にか手にしていた白い鎖で、明日香の全身を瞬時に拘束した。そのまま容赦なく豪快に地面へと叩きつける。
(な、なに……この人……!?)
「ふふ、まだ状況を飲み込めてないのかな?」
椎奈は再び黒刀を手にし、地面に伏せる明日香を嘲笑うように見下ろした。
「これが私の“奇跡”《祭礼詠唱》。祭りや祀りに関するあらゆる代物を、現実に引き寄せる能力だよ」
そう言い終わった時には、椎奈の顔には祭りの屋台で見かけるような狐の《お面》が装着されていた。
「あ~なるほど……こんな感じか。《飛燕》」
「えぇっ!? なにっ――《千羽防壁》!!」
椎奈の指先から放たれたのは、先ほど明日香自身が繰り出したはずの技だった。 咄嗟に防壁を展開して直撃を防いだものの、明日香の頭は混乱でパンクしそうになっていた。なぜ、初対面の相手が自分のオリジナルの技を使えているのか。
「この《お面》には、他人の“奇跡”を模倣する《道化》の力が宿っていてね。つまり君の技は、もう私の手の中にあるんだよ」
椎奈の声が、明日香のすぐ耳元で響く。 言葉が終わると同時に、椎奈はすでに明日香の完全な背後を取っていた――。
だが、明日香とて覚醒したばかりの初心者ではない。星羅や先輩たちとの過酷な特訓を経て、“奇跡”に頼らない戦闘技術も身につけていたのだ。
「だったら――!」
明日香は反射的に身を翻し、神社での知識と実家の血筋を活かして自身の力を形にする。
「“奇跡”《祭具詠唱》――《茅纒之矟》!!」
明日香の手に現れたのは、刀身・柄・鍔のすべてが純白に染まった一振りの刀。だが、それを見た椎奈は少し顔を歪めた。
(……チッ、特殊能力が付与されてないただの模倣武具……? まぁ、関係ないけど!)
次の瞬間、椎奈の後方から突如として鋭いピックが飛来した。 魔法とは異なる物理的な奇襲に、明日香の反応が一歩遅れる。
「言ったでしょ? “祭り”に関係あるものなら何でもありなんだよ――《屋台囃子》!」
飛んできたピックを《千羽防壁》で防ぐのに手一杯な明日香へ、さらなる理不尽な攻撃が襲いかかる。
頭上を見上げた明日香の視界を覆い尽くしたのは――直下してくる特大の太鼓だった。




