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特別養護老人ホーム鴉の巣  作者: 福口哲郎


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朝の申し送り

そういえばうちのおばあちゃんもそうだった。

「最低だ」って思ったことを思い出した。よく一緒に買い物にいったのだが、スーパーで年末のイベントで福引券がもらえる。よくある一〇枚集めないと一枚と引き換えてくれないというやつだ。そして、五〇〇円で一枚、とりあえず集めていたのだが、もう明日で終わり。四枚しかないのである。男が

「あと三〇〇〇円も買わないといけないから、集めるの無理だね。誰かにあげればいっか。」と何気なくいったら、おばあちゃんが

「そんなのあげるくらいなら破ったほうがいい。」

といって男から取り上げて、わざわざこれでもかという位にビリビリに破り棄てた。

「・・・・・」

(うわ~最低だ。こんな嫌な人間にだけはなりたくないな~。反面教師だな。歳をとるとこうなってしまうのかな~。それなら死んだほうがましだ。最低だ。)

と若い頃は、ずっと思っていた。人の不幸話が大好きな厭な人間。しかし、脳科学などの研究からそういう人ほどストレスなどに強く、長生きできるというものなのだろう。悪口や影口もそのたぐいだ。いかに他人に嫌われても欲望に素直になるか・・・。

たくましく生きるというのは、簡単なことじゃないのだろう。


 

 とりあえず彼女の分を支度する。朝は、たいてい味噌汁、ご飯、漬物、副食の炒めものなど一品である。今日は切干大根の煮物だ。あとは、お茶を熱々で出さないと怒られるので注意が必要だ。ご飯だけは、各ユニットで炊いている。軟らかすぎてもいけないが、かたすぎても「こんな芯のあるもんだしやがって!」と怒られる。そして、量も茶碗に大盛りじゃないと駄目である。とにかく細心の注意が必要な人だ。

「おはようございます。」

そういって、ご飯を出す。

「ん、今日はまあまあ早いな。」

と彼女は少し機嫌がいいようだったが、次の瞬間、

「あかんわ!なんだこれは!」

といいこちらに、おしぼりをおもいきり投げてきた。眉間にしわをよせ厳しい表情だ。

「こんなの消毒されとらん!もっと火傷する位熱くしんか!」

ったく・・・火傷しちゃかんだろ!っと突っ込みたいのをもちろん我慢して・・・

「はい、すみません。温め直します。」

と答えておく。彼女に口答えしてさらに怒られ事務所に苦情を言いにいかれて挙句の果てに、始末書を書かされた職員もいるからだ。そうなったら、やっかいなだけなので、納得いかなくても介護のプロとして無難に謝っておくのが一番である。

 すぐにおしぼりをレンジで温め直してお出しする。

「うん。これなら良しにするか。」

(はあ~、いつもの事ながら、ほんと疲れるわ・・・)

 やっとのことで、申し送りができる。



夜勤者の安藤さんは、今年で二年目。専門を卒業してきたのだが、一年目はとにかくひどく、鴉の巣でも一番の問題児じゃないかと皆に言われていたくらいである。

かなりの天然で、ネギトロ丼をレンジで温めて利用者さんに本気で怒られたり、漬物を温めたり、玉子豆腐をマヨネーズのように絞りだし「こんなの食えるか!」と苦情をだされたり、オムツをしわすれたり、注意不足で転倒させたり、ベッドの柵を忘れたり、一日に二回同じ人の転倒にあったりなどなどなど、不注意というかここまでくると、運が悪すぎるというのもあるくらい様々なことがあった。

もちろん、フォローするわけではないが、やはり相当忙しいためしかたがないこともあるのだが・・・いくら何でも流石に問題ありすぎだろうと思ってしまう。

 しかし、そんな彼女も鴉の巣一忙しく大変といわれているこのユニットで鍛えられ、今では利用者さんから評判もよく、仕事も早くいつの間にか、元気だけがとりえだけじゃなく、出来る女になっていた。そんな安藤さんも、いくら慣れたといえやはり、ここの夜勤は辛かったのか、眠たいのかいつもの元気さがなかった。


 申し送りで、話す内容は、利用者さんの体調、病院に行く日、排便がマイナス何日か、変わったことがあったかなどである。もちろん、とくに何もなければ「お変わりありません」でいいのだが、難癖をつけてくる上司とかは「本当に何もなかったのか?」「何もないなんておかしいだろ?」というどうしようもない馬鹿な上司もいる。確かに何もないわけではないだろうが、最低限で十分だろう。早番が七時からで、夜勤が七時に退勤という申し送りの時間がない違法なシフトなのにそれで偉そうによういうものだ。毎日サービス残業。簡単に、要点だけで十分である。


もちろん、中には一人一人を細かく言っていく人もいるが・・・日中こうこうで、夜間は何時から何時まで起きていて何時に寝てなど。それをすると、三〇分以上かかり全然朝の支度ができないのが現状である。もちろん、それがいけないということではないのだが・・・。考え方しだいだろうが。

後で記録見といて下さいの一言で済む話である。


つづく


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