第5章 幸福
気がつくと、画面にはエンドロールが流れていた。
せっかく楽しみにしていた映画だったのに、
過去のフラッシュバックのせいで、内容がほとんど頭に残っていなかった。
ふと隣を見ると、彼が心配そうにこちらを覗き込んでいた。
「……面白かった?」
私があまりに無表情だったせいで、つまらなかったのだと勘違いしたのだろう。
そうではない。
とても申し訳なく思いながら、
断片的な記憶を掘り返して感想を語ると、
「だよな! 俺もそこめっちゃ刺さったわ!」
と、たっくんは屈託のない笑顔を見せた。
その笑顔が、暗い館内でひときわ明るく見えた。
なんて素敵な笑顔ができる人なんだろう。
そばにいると呼吸が楽になる。
彼の空気は、きっと愛されてきた人間だけが持つ温かさだ。
私は、その感情に名前をつけられなかった。
胸の奥で何かがひっそりと軋んだ。
映画館を出てモールの廊下に出ると、
途端に人のざわめきとフードコートの香りが流れ込んできた。
明るい照明の下を歩きながら、
どこかふわふわした気持ちで彼の後ろをついていく。
自動ドアが開き、外へ出ると、夜風が冷たく頬を刺した。
さっきまで温かかった身体が、一気に縮こまる。
その瞬間、ふっと首元が暖かくなる。
気づけば、たっくんのマフラーが私の首に掛けられていた。
さっきまで彼の肌に触れていた温もりと、彼の香りが、私をそっと包み込む。
「外さむっ! さすが田舎だな……。あ、見て。
向こう、イルミネーション出てる。さみーけど、見に行くべ!」
肩をすくめながら笑うたっくんの手が、突然、私の手を掴んだ。
大きくて、柔らかくて、あたたかい手。
二人で外の広場へ走ると、大きな木に、色とりどりの電飾が巻かれていて、脈打つように光っていた。
子どもたちがはしゃぎ、カップルが肩を寄せ合って写真を撮っている。
その光景が、電飾よりもずっとまぶしく見えた。
これが“幸せ”なのだろうか。
そんなことを考えながら、そっと彼を見上げる。
たっくんは、まるでこの電飾に包まれた大きな木のようだった。
逞しく、静かに光を放っている。
彼はいつも人の中心にいた。
みんなが見上げ、憧れる光。
周りの人たちが勝手に笑顔になる空気感。
もし、このまま彼と一緒にいられたら――。
私の人生は、どれほど美しいものになるだろう。
そう思うのと同時に、胸の奥でザラザラした感情が静かに蠢く。
私はそれが何なのか、まだ気づかないふりをした。




