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87.せめて死ぬ前に一矢報いてもらわないと

「ほう、高位魔法とな。あの水色の髪の可愛い子ちゃんといい、星の騎士は『魔導士クラス』の魔法も習得しとるのか。《光の剣(レイブレード)》以外はせいぜい、戦闘の補助程度かと思っとったが」


 とんがり帽子のドワーフ——ガンドルが、目を丸くして呟いた。


「当たり前でしょ、甘く見ないでよね……と、言いたいところなんだけど」


 オルフェはやや不機嫌そうに続ける。


「〈星芒騎士団(スターナイツ)〉の中で高位魔法を習得しているのは、六人だけだよ。ちなみにボクは違う。ちょっと癪だけどね」


「ハッ。あの女みてえなガキに敗けてんじゃねぇか、【銀弾】?」


「馬鹿にしないでくれる?使える攻撃魔法の位階だけでボクたちの実力は測れないよ」


 褐色のエルフのからかうような言葉に、オルフェは冷たい目で一瞥してから答えた。


「それにあいつの高位魔法は中途半端だよ。何せ、火属性高位魔法の基礎、《大炎(グレートフレイム)》が使えないからね」


「ああ?今使ったじゃねえかよ。《大炎球(ファイアボール)》は《大炎(グレートフレイム)》を練ったモンだろうが。《大炎》を呼べねえ奴が、どうやってアレを撃つんだよ」


「知らないよ。ボクに聞かないでよね」


 オルフェは面倒くさそうにレンを睨んだ。


「……とにかく、あいつは《大炎(きそ)》をすっ飛ばして、先に《大炎球(おうよう)》が発現したんだよ。だから《大炎球》を放つときだけ、セットで《大炎》を召喚できる。——てか《大炎球》を使う時しか《大炎》を呼び出せない、って言ったほうが正確かな」


「……チッ、そういうことかよ。精霊の”理”を蔑ろにしやがって。いつか報いを受けんぞ……まあ、あのガキがどうなろうが、俺はどうでもいいけどよ」


「それって……何か良くないことなんでしょうか……?」


 オルフェとレンの会話に不安を感じたセシリアが遠慮がちに問う。


「ああ?そりゃ、契約ってのは手続きがあんだよ」


 レンがさも「当たり前だろ?」という風に答えるが、セシリアはさらに困惑の表情を浮かべるだけだ。一方、その隣の第三皇子はそれだけで理解したようだった。


「まあ、精霊魔法って言うのはいろいろルールがあるって話なのですが」


 雑な回答しかできないレンを遮って、オルフェがセシリアに向き合う。


「一旦それはおいておきましょう。差し当たって、基礎の習得前に応用が発現した場合の弊害は……とにかく、コントロールが上手くできないということです。出力の調整とか、消費魔法力とかですね。魔法も暴走しやすくなるし」


「な、なるほど……それは心配ですわね」


 オルフェの説明にセシリアは緊張した面持ちで唾をのむが、それ以上は聞かなかった。

 そのオルフェの横で、レンが「チッ、いい加減な解説しやがって」と舌打ちする。

 オルフェはそれに「キミに言われたくないね」と肩を竦めて応じた。


「ふん、基礎があろうがなかろうが、ちゃっかり”隠し玉”を持っとったじゃないか。しかも『火』とはのぅ。……なるほどな。だからモニカは、敢えてウガルルムを選んだんじゃな。全く、世話好きなやつめ」


 ガンドルが大袈裟に溜め息をついて言う。


「まあ、防がれちゃったけどね」


「ホントだよ、当てられなきゃ意味がない。何やってんだよ、あいつはさあ」


 ガンドルの隣で淡々と言うのは兎人のククル。

 オルフェは苛立たし気に頷いて、眼下の後輩を睨んだ。


「ハッ。てめえの言う通りだ、【銀弾】。もっとギリギリまで引き付けてから撃つべきだったな。もう、初見じゃねえ。ちょっとやそっとじゃウガルルムは喰らってくれねえぜ?”隠し玉”があの大炎球で終わりなら、あのガキは詰みだな」


 腕と脚を組み、レンが詰まらなさそうに言う。


 それを聞いたセシリアが「そんなぁ……」と両手で口元を覆った。

 ミレイユが幼い皇女の肩に優しく手を置き、皇女には見えないところでレンを睨む。


 レンは「しょうがねえだろ、こればっかりはよ……」と少しだけばつが悪そうに目を逸らした。


「いや、でも。まだあの光る大剣で攻撃を当て続ければ、アリスさんにも勝機があるのでは?」


 兄皇子が疑問を口にするが、


「無理だな」


 レンは詰まらなさそうに首を振る。


「確かに、いくら再生するって言ってもウガルルムにも限界がある。モニカは試合が始まってから、一度も魔力を供給してないから。ウガルルムの生命力を削り切れば、あの子も肉体を保てなくなって還っていくよ」


 褐色のエルフの代わりに、兎人の少女が答えた。


「でもそれには、あの大きな剣でもあと四、五十回くらいは攻撃を与えないとだめ」


「そこまであの小僧の魔力が持つとはとても思えんな。他に手がないんなら、確かに”詰み”じゃ」


 ククルの言葉にガンドルが続け、そしてオルフェを見やる。


「……いや残念だけど、そんなにポンポン”隠し玉”は出ない。打ち止めだよ」


 一同の視線を受けて、オルフェは肩を竦めた。


「そもそも、あいつがアレと戦うのは……五年早い。——でも」


「?」


 貴賓室の一同が怪訝な顔をする中で、オルフェはもう一度眼下の闘技場(アリーナ)に視線を移し、そして後輩を睨む。


「まあ、一応、成り行きとは言え?〈星芒騎士団(スターナイツ)〉の看板背負って出場してるわけだし?……流石にこのまま負けたら、ただじゃ置かないけどね」


「ア、アリスさまの出場は、オルフェさまが独断でお決めになったと、あ、兄上から伺った気がするのですが……」


 幼い皇女の小さなその声は、オルフェには届いていない。


「五万人が見てるわけだし?冒険者も大勢見てるわけだし?このまま何も良いところ見せずにくだばったら、上官のボクも恥をかくわけだし?——せめて死ぬ前に一矢報いてもらわないと、困っちゃうよね」


「いや、誰も死なんがな……」


「おっかないよ、この人……」


 とんがり帽子のドワーフと兎人の少女が、ドン引きした目をオルフェに向けた。




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