64.アウト・オブ・コントロール
「いやあ、あのお嬢ちゃんたち、ここまでやるとは大したもんじゃったのう。——だが、しかぁし!!吾輩の『グレート・アサルトマシーン二号』には誰にもかなわんわッ!!ぐわははははっ!ぐへぇ!」
マイクを片手にガンドルの高笑い——そして彼が肘うちを脇柄に喰らった際の悲鳴。
「何喜んでんだ、当たり前だろ。試合に対一個師団レベルの戦争用兵器なんか持ち出しやがって。……マジで引くわ、このクソジジイ」
「ホント、大人げない」
「本当に、本当に、とても大人げないわね」
肘うちとともにレンが呆れた顔で睨み、ククルとモニカが冷たい目を向け、そしてミレイユが絶対零度の微笑みを向ける。
「……まあ、いい。あの女どもは、そこそこよくやったんじゃねえか」
「あら、あなたが褒めるなんて珍しい。でも確かに会場は大盛り上がりね。あんなのを相手にしてちゃんと見世物にできたんだから、あの子たち大したものよ」
レンのぶっきらぼうな称賛に、モニカは少し驚いた顔をしてから頷き、そして視線を眼下に向ける。
「……まあ、お陰で闘技場の石畳はめちゃくちゃになってしまったんだけどね」
「リンクの下の土まで水浸しでドロドロだよ。一回、直さないと次の試合できないね」
ククルが無表情に頷いた。
彼女たちの視線の先には、かつて楕円形の石畳だったことさえ推測できないほど無惨に粉砕された石片が散乱していた。
おまけにリリィの水魔法で巨大な泥の水溜まりが形成されている。
「グズグズやってるとせっかくの熱がシラけちまうな。一時間で修理させんぞ。……おいコラ、何してんだジジィ。さっさとあのデカブツをしまえ。邪魔で修復できねえだろうが」
褐色のエルフが乱暴にドワーフの尻に前蹴りを喰らわす。
「あれ?あれれ?」
だが予想に反して、いつもの大袈裟でわざとらしい呻き声の代わりに奇妙な声を上げる。
「ガンドル、どうしたの?」
モニカがその美しく整った顔を傾げて、ガンドルの顔を覗き込む。
「やっとるんじゃ、やっとるんじゃが……吾輩の魔力に反応しないんじゃ……」
「ああ?」
レンが眉間にしわを寄せて怪訝な顔をする。
「いや、と言うより……」
ガンドルは消え入りそうな声でそう言うと、恐る恐る、といった感じで振り返る。
その顔は心なしか青ざめていた。
「……吾輩の命令が拒絶された」
「はあ!?」
「つまり、どうゆうこと?」
褐色のエルフが怒気を孕んだ声を上げ、兎人が先を問う。
一方、青髪の女と片翼のセイレーンは何かを察したようにお互いの顔を見合わせた。
オルフェも不吉な予感を抱きつつ、とんがり帽子のドワーフを見る。
「『グレート・アサルトマシーン二号』は吾輩のコマンドをキャンセルして自動制御に移行した。つまりは——」
竜を狩るために生み出された巨大な殺戮機械の、左右非対称な眼が赤く激しく輝いた。
「——暴走じゃ」
Ψ
「あれは!!」
ガンドルの言葉とほぼ同時。
貴賓席から大きく離れたところでも、いち早く異変に気付いた者がいた。
リンクの脇に待機して仲間たちの敢闘を見守っていた、ジル。
そしてアリスだ。
「まずい!!」
「ジルさん?」
ジルにしては珍しく焦った声。
エイリークは怪訝な顔でジルを振り返った。
「再起動する……!」
「へ?」
まだ状況が把握できないエイリークの隣で、アリスがその小柄な身体から全霊を込めて大声を絞り出した。
「ローズ!!リリィ!!!逃げろ!!」




