63.決着
「何だアレは!?稲妻の魔法か!?」
ハルドールが驚愕の声を上げる。
「違うわい。フフフ、聞いて驚け。『レーザービーム』じゃ!」
「なんだそれは?説明しろ」
上機嫌のガンドルを興奮した面持ちで詰問するのは、銃士メーリック。
「ドラゴン・スローターって、そんなことできたのかしら?」
「やりたい放題だな、クソジジイ」
呆れた顔のモニカとレンの横で、
「ちょっとカッコ良い……」
ククルがぼそっと呟いた。
「知らん!グハハハハ!が、そういう伝承もあることはあるんじゃ。知るやつなどおらんのだから、どうせならあった方が面白いじゃろうが!」
「ちっ、またロストテクノロジーか。一介のドワーフごときが、どうなっている」
エーヴェルが、忌々し気に言う。
「ローズさま……!」
セシリアが心配そうに闘技場を見つめていた。
Ψ
——ギュインッ
放たれた光条はローズを捉え損ね、彼女の赤毛を数本焼くにとどまった。
輝く二枚の鉄扇が、光の軌道をわずかに逸らしたからだ。
「……はあ、はあ!」
レーザーを受けたバトルファンは光を失いひらひらと舞いながら力なく落ちていく。
「ガガッ!!」
「!」
魔法と技の連発で疲労が浮かぶリリィは、再び上半身だけを高速回転させて薙ぎ払われた巨兵の左腕への反応が一瞬だけ遅れた。
「きゃっ!」
「リリィ!!」
何とか直撃を交わしたリリィだが、振り抜いた剛腕の衝撃波をまともに受けて吹き飛ぶ。
魔力と体力を使い果たしたリリィは受け身を取り損ね、もはや原型をとどめていない石畳の残骸に背を強く打ち付けた。
地面で呻く水色の髪の少女に、人間ならありえない体勢のまま巨兵は右手の銃口を向ける。
赤い光が、銃口に収束していく。
「こんのぉ!」
それを見たローズは風魔法を解き、自由落下に身を任せながら今や目前となった機動巨兵の頭部に眩く輝く鞭を放つ。
だが。
ガコンッ——!!
巨兵はレーザーを放つことなく、再度上半身を高速で回転する。
(——リリィ狙いはフェイント!?)
ミスリルの左手が、一瞬でローズの目の前に迫る。
(しまっ——)
「ローズ!!!!」
三度、リリィの悲鳴。もはや絶叫と言ってもいい。
ガコンッ!!!
同時に鈍い音。
——ローズは中空で巨大な手に叩き落とされた。
Ψ
『うわああああああああっ!!!やられたあ!やられてしまったあ!!!』
絶叫が円形闘技場中に反響する。
「あとちょっとだったのにぃ!!しかし我らが舞姫たちはよく頑張ったぁぁ!本当によく頑張ったぞお!!そして皆さん、ご安心を!!ちゃんと護符の防護結界がありますのでえ!!あの美しい少女が蠅のようにペシャンコになったりはしてませんのでえ!!」
マイクを握りしめ、ナレーターの男ががなり立てる。
観客席のそこかしこから「当たり前だあ!!」と言うようなやじが飛び交う。
「……何言ってんだ、オイ。それじゃあ、つまらねえだろうがよ。ククク」
ナレーターの男の背後でそう呟いた甲高い声は、大歓声にかき消され誰の耳にも届いていない。
Ψ
ローズの身体は、確かに巨人の手で叩き落とされ、そして石畳に叩きつけられた。
いや、厳密には、巨人の手がローズの身体に触れる直前、彼女の首飾りの護符に取り付けられたしずくの形をした青い宝石が閃光とともに砕け散り、同時に赤髪の少女の全身が眩い球状の光に包まれていた。
巨兵が叩き落としたのはこの光の球体。
石畳に叩きつけられたのもこの球体だ。
「ローズ!!」
リリィが泣きそうな声を上げて球体に駆け寄る。
一旦リンクの外に退避していた審判役の獣人も点在する元石畳の上を器用に蹴って、ローズの下へ向かう。
赤髪の少女を羽虫のように叩き落とした機動巨兵は、魔力の球体の発生を確認後、最後の動作を終えた不自然な姿勢のまま、今は完全に沈黙している。
「いやー、死ぬかと思った!さすがのあたしもちょっとビビったわー」
青白い光の球体の中で、ローズはカラカラと笑っている。
「さすがにアレはちょっと無理だったよー」
今しがた十メートルの巨人の渾身の一撃を受けたとは思えない、爽やかな笑顔でリリィを迎える。
「トラウマになっちゃうかと心配したよー……!」
半泣きでリリィは球体に両手を当てる。
「——さて、一応お前はまだ護符が発動していない訳だが……」
ローズの無事を確認してから、グレイハウンドの獣人が水色の髪の少女にその精悍な犬頭を向けた。
「もう、十分だよな?」
「はい」
リリィはちらっと今は微動だにしないミスリルの巨人を振り返り、それからローズを見て、そして獣人に向き直った。
「降参します」
グレイハウンドの獣人は頷くと、右手を高々と掲げた。
一拍の後、銅鑼が鳴り響く。
そしてナレーションが木霊した。
『試合終了ぉぉぉおおお——ッ!!!試合終了だあああああッ!!』




