62.赤い光条
「やばい!」
アリスが思わず声をあげ、
「あと一歩だったのに!ここでローズ先輩の脱落は致命的……!」
エイリークが悲痛な顔で言う。
「いやまだだ。まだ護符の結界は発動していない」
ジルが宙を舞うローズを目をすがめて見据えながら、静かな声で言う。
「え、いやいくら何でもあの巨体の攻撃じゃあ一発で……」
怪訝な顔をするエイリークだが、その隣でアリスがジルにならって舞い上げられたローズを観察する。
「風魔法……!」
「ああ、そのようだな」
ジルが頷いた。
Ψ
「ローズ!!!」
遥か下、地上でリリィが悲痛な声で叫ぶのが聞こえる。
「……大丈夫!!」
ローズは上空で叫び返した。
(とは言え、あっぶなー……!)
地面に叩きつけられていたら為すすべがなかったが、下から上への一撃であったことから、ローズは咄嗟に躱すことを諦め、全力で機動巨兵の掌に向けて風魔法を放った。
強力な風の防壁に守られて直撃を免れたが、代わりに遥か上空に打ち上げられたわけだ。
(もし今ので気を失ってたら、意識ないままこの高さから落ちるわけじゃん?そしたら死んじゃうような気がするけど、それって相手の攻撃の直接の結果じゃないから、もしかして護符の加護ってちゃんと発動しないんじゃない……?)
ローズは自分でした恐ろしい想像にぶるっと身を震わせる。
(因果関係があれば大丈夫……だった気がするし、ネガティブなこと考えるのはやめとこ!)
地上から遥か上空およそ五十メートル。
風魔法で自由落下の速度を和らげながらローズは腕を組んで思案する。
(てか、上半身だけ回転するなんて反則でしょ。でもあれはオートマタが半分入ってるから?それとも本物もそのくらいできるのかな……)
——あ、いや、今はそれよりも。
(両足が埋まってるのはまだ変わらない。ちょっと体が柔らかいだけだと思えばどうってことないわね。ほっとけばすぐに這い上がってきちゃうだろうけど、その前に頭を破壊しちゃえば……こっちの勝ち!)
自動機械の性能を宿した機動巨兵は、ローズを見上げて親指を失った右手を伸ばしている。攻撃対象をリリィからローズに移したようだ。着地の瞬間を狙っているのだろう。
(舐めないでよね。あたしだって予め詠唱しておけば、風魔法の風圧でなんとか躱せる……はず)
ローズは腕組みを解き、風魔法の詠唱を始める。
(リリィの水魔法は連発でさすがにそろそろ打ち止めだし、そもそもこの相手には相性が悪い。それにバトルファンだと首を吹っ飛ばすまでに時間がかかる。やっぱりあたしがやったほうが良いよね)
「……―ズ!ローズ!!」
——呪文を詠唱しながら別のことを考えていたローズは、リリィの慌てた叫び声に気づくのが一瞬遅れた。
ガコン。
相変わらずローズに向かって腕を伸ばす機動巨兵の、その親指を失った右手首が突然不自然に外れ、そして手の代わりにそこに現れたのは——
(!銃口……!?)
見る間に赤い光が集束し——
キュンッ——!!!
「!!」
放たれたのは銃弾——ではなく、真紅の光条。
「ローズ!!!」
再び、リリィの悲鳴。




