60.いいこと思いついちゃった
「——器用な子ね。あの一瞬で、一切傷つけずにただ縛って引き寄せるなんて」
「判断も的確だった。攻撃を加えてもあのゴーレムを止められないと分かって、仲間の移動に切り替えてる」
モニカが感心したように言うと、隣でククルも賛同した。
「ゴーレムじゃないわい、『グレート・アサルトマシーン二号』じゃ!」と怒鳴るガンドルの言葉は完全にスルーされている。
「それにあの水色の髪の子のほうも、凄い魔力ね。光る扇の威力と言い、遠隔操作の範囲と言い、大したものだわ。高位魔法も習得しているみたいだし」
モニカの言葉に、セイレーンのミレイユも無言で頷いた。
「ああ、そうじゃな。あの子は魔導士としてもかなりの器じゃよ。それに可愛いし……」
「可愛いのは、関係ないでしょ」
ククルが冷たい目でガンドルを見るが、
今度はガンドルがその目を無視して続けた。
「『グレート・アサルトマシーン二号』もあの子の魔力に反応しおった。ヤツなりに警戒しているようじゃ」
「あの小娘の魔力がそこそこなのは否定しねえが、属性が悪ぃな。水の精霊魔法はそもそも攻撃にむいてねぇ……水辺でもねえ限りはな。デカい魔力の持ち腐れだ」
褐色のエルフ、レンが鼻で笑う。
「さすが、攻撃魔法が得意な炎の精霊使いらしい発言ね」
「『攻撃魔法しか能がない』の間違いじゃろ」
「るっせえよジジイ」
褐色のエルフがとんがり帽子のドワーフをギロリと睨む。
「でも、確かにこれ以上は難しそうね。さすがにそろそろ『詰み』かしら」
モニカはまた眼下で戦う二人の少女に視線を戻して呟いた。
Ψ
「どうしよう、ローズ。思った以上に速いし固いよ……?」
「大丈夫、作戦に変更はなし。あたしはアイツを引きつけながら、とにかく足を狙う。あんたは引き続きあのぶっとい首を狙って。あんたの扇と魔法なら確実に削れるでしょ」
「ほんのちょっとずつ……だけどね」
「塵も積もれば山となるってやつよ。大丈夫だって。あたしも必ずあいつを転ばせて見せるから。……といっても、ここぞという時にはあんたにも手伝ってもらうけどね」
「うん、わかった。まずはあの人を転ばせてから、だね」
「あの“人”ってあんた……まあ、いいわ。その通り。今のままじゃ、あんたはともかくあたしは毎回あいつの顔の高さまで跳ばないと頭を狙えないし、そんなことしたら『蠅叩き』されちゃうわ」
「確かに……空中じゃ躱しきれないしね」
「ぺしゃんこよ、ぺしゃんこ」
「そ、それは怖いね……」
「じゃ、そういうことで。作戦はわかったね?」
「うん、大丈夫」
「行くよ!」
「了解!」
他の者が訊いてもただの雑談にしか思えないような短い作戦会議を終えて、二人の少女は行動を再開する。
ローズは輝く鞭で光の軌跡を描きながら、ドラゴン・スローターと近接戦闘を繰り広げている。
巨兵の破滅的な一撃は掠りでもすれば間違いなく護符の防護結界が発動しゲームオーバーになるだろう。
それどころか、躱した後の風圧でも吹き飛ばされるくらいだ。
必然的に全ての回避動作は極端に大きく、激しくなる。
竜殺しの巨人の周りで付かず離れず光の帯を繰るその姿は情熱的な舞いを踊るかのようだ。
リリィは二枚の銀扇を放っては彼女特有の歌うような詠唱とともに空いた両手で魔法を叩き込み、扇が手元に戻れば回転してキャッチ、間を置かずにその回転を利用して直ちに再投擲を繰り返す。
その姿もまた優雅で可憐な舞姫のそれだった。
だが——
「あっ!」
ズガガガアアンッ——!
何度目かの、闘技場の石畳を根こそぎ穿っていく巨剣の大斬撃。
ローズは軽やかに回転して斬撃とその周囲に生み出される暴力的な衝撃波を躱すが、着地の際に足を取られる。
気づけば石畳は所々が粉砕され、足場が非常に不安定になっていた。
「あっぶなーい……てかリンクがボロボロじゃん。……ん?そうか」
咄嗟に地面を転がって衝撃を和らげてから、ローズは片膝をついて半身を起こす。
「ローズ、大丈夫!?」
慌ててリリィが駆け寄ってくる。
「うん、あたしは大丈夫」
そのリリィに向かって、ローズは悪戯を想いつた幼い少女のような笑顔を向けた。
「——ねえ、リリィ?あたしいいこと思いついちゃった」




