57.竜殺しの巨人
(あ、あれ?今おれ、なんであんなに大魔導ガンドルにムカついてたんだっけ……?てゆうか、なんだあのデカいの?!え?まさかアレって……!?もしかしておれ、ヤバい地雷踏んじゃった……?)
マイクを手にしたまま、ふと我に返った彼は、眼下に現れた超巨大な金属の巨人に慄いていた。
(で、でも今更仕方ないよな……!とにかく、会場は大盛り上がりだし……し、仕事しないと……!)
動転する気持ちを抑えて彼はマイクを握り直し、
『なんとぉぉぉ!さすが我らが【吊るされし大魔導】!!ナディア最強の大魔導!まだ終わりじゃなかったぁあ!!そ、そして、呼び出されたアレは!?『グレート・アサシンマンなんとか』とのことだがぁぁああ、アレは、まさかまさかぁ!?』
他に選択肢もなく、彼はナレーションを再開する。
その彼の背後に暗い色のローブを纏った小柄な人影があったことは、彼はもちろん、周囲の者も誰も気づいてはいなかった。
Ψ
「グレート…アサルト…?いや、でもあの見た目は」
「これはいかんな」
リンク脇の控え席で、アリスとジルはそれを見上げていた。
Ψ
「あ、あれは……!」
「ば、馬鹿な、なぜこんなところに!?」
「と言うか、まさか動くのか!?」
第六皇女が目を丸くして思わず立ち上がる。
同時にメーリックとエーヴェルが驚愕の声を上げる。
オルフェも、無言ではあるが驚きを隠せない。
「あれは、どう見ても……」
警護長ハルドールも困惑した声を漏らした。
「これは驚いた。城の地下に保管しているものと、まさに瓜二つだね」
ローエンデールの王宮地下には、百年以上も前からそれが保管されていた。
もっとも、発見されたときから、すでにそれは朽ち果てた残骸でしかなかった、太古の遺物だ。
それはローエンデールが大陸を制覇するよりもっとずっと、遥か昔の兵器。
「——『竜殺しの巨人』……!!」
Ψ
「……ど、ドラゴン・スローター……!?」
「うっそでしょ?それってお伽話じゃないの……!?」
「いや、ローズ……わりと残骸は大陸各地で見つかってるから……そのほとんどが風化しているけど。ローエンデールには完成体に近いものを保管してるって聞いたことある……」
「え、じゃあ、それ盗み出してきたのかな?」
「いやいやいや、さすがにそれはないと思うよ、ローズ……」
『グワハハハハハハッ!!知っている者も多かろう!!帝国の機械文明よりさらに昔!今から二千年も前の魔法王朝時代!”竜を狩る”ために設計されたと言う伝説の殺戮兵器じゃあ!!その名も魔導式対竜機動巨兵『ドラゴン・スローター!!』』
ウオオオオオオオオオオオォォォォォッ——!!!
「あ、やっぱり」
とローズ。
『無論、本物ではないがのう。じゃが、性能は勝るとも劣らん!何せ吾輩の魔力と科学力の全てを詰め込んでおるからなぁ!!』
「……いや、なんだろう。うん、もうさ。——あのサイズのミスリルゴーレムってだけでさ……」
「うん、ちょっとさすがにこれは……無理ゲーってやつね」
見上げるリリィとローズ。
眼前には、全身鎧を身に纏ったような姿の人型魔導人形。
その体高は——十メートル。
赤髪の少女は小山のようにそびえるその巨体の顔と思しき箇所を見上げ——そして泣きそうな表情をしている水色の髪の少女を振り返り、
「これはちょっと……燃えてきたわ!」
「ええ……!?うそでしょ……」
リリィは泣き笑いのような声で言った。
Ψ
「大人げない」
「大人げないわね」
「引くわマジで」
「……」
「う、うるさいわい!それからミレイユ!そんな目で見るでない!」
ククル、モニカ、レンの冷めた声と、相変わらず微笑みを絶やさないミレイユの瞳の奥の絶対零度の暗い光。
「まあ、二連敗だと三戦目が盛り上がらねえからいいんだけどよ。……にしても流石にアレはねえだろジジイ」
褐色のエルフが脚を組んで、ジロリととんがり帽子のドワーフを睨む。
「ねえ、ガンドル。一応聞くけど、貴方アレ、ちゃんと制御できるのよね?」
「あったりまえじゃ!現代の魔法学で足りない部分はオートマタで補っておるし、安全装置は完璧じゃ!」
「そうじゃなければ大惨事……」
呆れたような声のモニカ、相変わらず冷めたククル。
「……まあいい。何かあれば諸々の責任はテメエでとれよ、ジジィ」
レンが溜め息をついた。
「わかっとるがな」
Ψ
「……どうする?さすがに棄権しても、誰も何も言うまいよ」
闘技場中央で、グレイハウンドの獣人がローズとリリィに尋ねる。
「冗談!伝説に出てくる古代兵器とやりあえるなんて、二度とないチャンスじゃん!」
ローズは何の憂いもない顔でカラカラと笑う。
「わかった。……こいつはこう言っているが、お前もいいのか?」
呆れたように頷いてから、審判の獣人は改めてリリィを見る。
「ほんとは棄権したいですぅ……でも、まあ、ローズがやるなら。わたしも頑張ります!」
水色の髪の少女は健気な苦笑で応える。
「ふたりとも、大した度胸だ。……いいだろう」
そう言ってグレイハウンドの獣人はもう一度頷き、そして右手をゆっくりと天に向かって掲げる。
そして、勢いよく振り下ろした。
「始めッ!!」
銅鑼の音と共に幾度目かの大歓声が巻き起こった。




