56.引くに引けない大魔導
オルフェの解説を聞いて、あからさまに顔を顰めたのは、二人の銃士だ。
「ふん、一介の市民風情が魔法など……」
「「レナード」」
だがメーリックが最後まで言い終える前に、皇子と皇女の冷たく鋭い声が重なる。
すでに退場の警告を受けている銃士メーリックは、慌てて口をつぐむ。
危うく賛同しようと口を開きかけていたエーヴェルも、喉元まで出かかった言葉を飲み込んだようだった。
「そんなことどうだって良いわ。吾輩の最高傑作が……」
「るせえな、耄碌ジジイ。いつまでウジウジしてやがんだ。そもそも二戦目は勝ちを譲ってやるつもじゃなかったのかよ」
レンがガンドルのいつも以上に小さくなった背中を容赦なく蹴り飛ばす。
「うげぼぁっ!!?……くぉら、なにしやがんじゃ、レン、おんどれぁ!それは一戦目で圧勝する予定じゃったからじゃ!しかも吾輩の傑作があんなにアッサリと……ムキ―ッ!」
「負けは負け。ガンドルのコレクションが言うほど強くなかった」
ククルの無表情のままの痛烈な一言。
「なんじゃとぉ!?」
「ククルちゃん、ひどいこと言わないの」
モニカが兎人の少女を穏やかに窘める。
「ガンドルも元気出して。あなたの仇は私がとってあげるわよ。ヨシヨシ」
「ぐぬぬ……」
悪態をつきつつも、青髪の美女に背を小さな背中を撫でられて、とんがり帽子のドワーフはまんざらでもなさそうだ。
癇癪が少しずつ収まっていく。
が。
『なんということでしょう!!可憐で美しい!そして何より強い!その姿はまさに戦場の舞姫ぇ!!対して、一体どうしたのでしょうかぁ、我らが【吊るされし大魔導】!?まさかこれで終わりかぁぁぁあ!?正直、期待外れもいいところだぁ!不甲斐ない。不甲斐ないぞぉ!その武勇も地に堕ちたかぁ!?』
「——なんじゃとぉぉぉぉぉおおおおッ!!!?」
「ああ?オイ、なに煽ってやがんだ、あのナレーターの野郎?」
怪訝な表情を浮かべて眉を顰めるレン。
「ちょっといつもと違うわね。あの可愛い二人に一目惚れして、頭おかしくなっちゃったのかしら」
モニカがその形の良い唇に指を当てて、首を傾げる。
目が合ったセイレーンのミレイユは、肩を竦めて「さあ?」と言う仕草で応えた。
「いいじゃろう!そこまで言うなら見せてやるわい!!吾輩のぉ、正真正銘最後のとっておきじゃあ!!」
こめかみに血管を浮き上がらせて、手にしたマイクに向かって怒鳴るガンドル。
「まんまと乗せられやがって。いい歳超えて癇癪ジジイが……この期に及んで何を出す気だよ」
レンが冷たい目でとんがり帽子のドワーフを睨むが、ガンドルは止まらない。
「刮目せよ!吾輩の数あるコレクションの中でも最上にして最強の一体!!」
「……あ?おいマジかよ」
「ちょっと待って、ガンドル」
「このドワーフ、馬鹿なの?」
レンが、モニカが、ククルが、信じられない、と言うような顔でガンドルを凝視し、ミレイユが穏やかな微笑みを湛えたまま、言葉の代わりに白い片翼でスパンッとドワーフのとんがり帽子ごと後頭部をはたくが、それでもドワーフは止まらない。
「我が研究の最終到達点!!遥か昔、この大陸に君臨した超文明の最強兵器!!」
大魔導の叫びに呼応するかのように、闘技場の中心、リンクの石畳から上方約二十メートルの位置に、突然大きな黒穴のような空間が出現。
そしてその大穴から、二つの巨大な——足がゆっくりと降りてくる。
次第に足首・脚・腰・胴……と段々とその全身が姿を現し——
ズウウウウゥゥゥゥンッ——!!
地響きとともにリンクに降り立ったのは、白色に輝く金属製の巨人。
「見晒せ、わが生涯最強の——『グレート・アサルトマシーン二号』!!!」




