55.少女たちの『異能』
「素敵!あのお二人は、まるで舞いを踊るように戦うのですね!!」
「ええ、本当に」
セシリアの感嘆の言葉に、侍女のルイジアナも頷いた。
「これは確かに……美しい。それ以外の表現が思いつきませんな。いやはや、なんとも面白いものを見ました」
警護長のハルドールも感心したように同意した。
「さすがはナディアが誇る〈星芒騎士団〉!《光の剣》の使い手は女性も多いと聞きますが、まさに男顔負けの洗練された技術でしたね。いやあ、感服しました!」
ローレンスも興奮した面持ちでオルフェを見る。
オルフェは「お褒めに預かり光栄至極」と、穏やかな微笑みとともに優雅な一礼を持ってそれに応えた。
第三皇子が「男顔負け」と言う言葉をやや不自然に強調したのは、偏見ゆえにナディアからの護衛に女性隊長率いる一番隊・五番隊・六番隊を拒んだ自国の警護団幹部への当てつけもあるのだろう。
「ふ…ん」
いつもなら反論するか、少なくとも嫌味の一つは言いそうなメーリックもエーヴェルも、今回は極まりが悪そうに不機嫌な顔をするだけで何も言わない。
彼等とて今の試合で不本意ながら、しばし見惚れてしまったからだ。
「わ、吾輩の、最高傑作が……」
「ほんとあまりにも可憐な戦い方で嫉妬しちゃうわ。——でも、華麗なだけじゃなくて、随分と便利な『異能』なのね?【銀弾】さん?」
どんよりと暗いオーラを漂わせてぶつぶつ言いながら放心しているとんがり帽子のドワーフを他所に、モニカがオルフェに尋ねた。
「……あのさ、毎回ボクに解説させる気?」
オルフェは面倒くさそうに彼女を睨むが、兎人のククルも言葉をなくしたセイレーンのミレイユも興味深げにオルフェを見つめている。
「今更もったいぶってんじゃねえよ、別に減るもんじゃねえだろ」
と言ったのは、レン。
「……まあ、ちょっとくらいならいいけどさ」
オルフェは溜め息をついた。
「そもそも《光の剣》は強力ではあるけど、制限も多いんだよ。普通、細剣かそれより小さい刃物に魔力を注いで切れ味を強化するだけの、原理自体はごく単純な魔法だからね」
「それでも、普通の魔導士や冒険者が使う《魔法の剣》とは比べ物にならない威力よね」
「まあね」
モニカに頷いてから、オルフェは先を続ける。
「でも時々、この制限に縛られずに《光の剣》を使える変わったヤツが出てくるんだ。そういう特殊な才能をひっくるめて、とりあえず『異能』って呼んでるのさ。たとえば、細剣以外の武器を光剣化できたり、手から離れて魔力供給が断たれてもしばらく光剣化を維持できたり、とかね」
「ええ、そこまでは私たちもだいたい知ってるわ」
「武器以外に光を付与しやがる奴もいるだろ。さっきの緑頭とかな」
モニカが言い、レンが補足すると、オルフェはもう一度頷いた。
「そう。まあジルさんのアレは特にレアケースだけどね。さっきも言ったように本来は刃物の切れ味を強化するだけの魔法なんだけど、打撃武器を強化できる奴もいる」
「”切れ味を強化する魔法”なら、打撃武器には意味ないんじゃないの?」
ククルが他の者の疑問を代表して問う。
「そうさ。本来はね。例えばボクも無理矢理やれば、戦棍くらいなら光を纏わせることはできる。それが金属製なら、の話だけどね。でもそんなことしたって、せいぜいほんの少し衝撃が強くなるだけで、光剣化した細剣の攻撃力よりはるかに劣る。だけど『異能』のタイプによっては、自分と相性のいい武器の性能そのものを強化できることがあるんだ。打撃武器の破壊力を超強化できる『異能』を『クラッシャー』、飛び道具を強化できる『異能』を『ブラスター』なんて呼んだりするんだよ」
「ほお?面白えじゃねえか。もっと詳しく聞かせろよ」
レンが言うが、いつの間にかローエンデール警護団の騎士・銃士の視線もオルフェに集まっている。
「……残念だけどこれ以上は企業秘密……というかマジで軍事機密でね。とりあえず、エイリークの矢とリリィの扇は『ブラスター』、ジルさんがさっき盾でオートマタをぶっ飛ばしたアレは『クラッシャー』の要素が入ってるってとこまでだね」
オルフェが面倒くさそうに話を切り上げようとする。
「けっ。嘘じゃねぇけど全部は言ってねえって感じだな。……まあいいけどよ」
意外にも褐色のエルフはすぐに引き下がった。
何かを察したのかもしれない。
「せめてあの娘たちの今のアレは説明してほしいな」
一方で、兎人の少女は好奇心が抑えられないようだ。
一見表情が乏しいように見えるが、その大きな目がキラキラと輝いている。
「……仕方ないなぁ、ま、あいつらは任務でも武術大会でも隠す気がないからね。でも特別だからね」
言葉とは裏腹に、オルフェはあまり躊躇した様子もなく説明し始めた。
「リリィのやつは、『異能』としてはオーソドックスな『ブラスター』だよ。と言っても、飛び道具二つの光剣化を同時に維持できるヤツはまずいないし、手を離れてからあれだけ長時間光を維持できるのは、〈星芒騎士〉の中でもアイツだけだけどね」
ふんふん、と兎人の少女は真剣な眼差しで聞いている。
「ローズのほうは……ちょっと特別でね。通常、どんな武器でも光剣化すると、柔軟性を失って硬化するんだ。だから鞭なんかは普通なら長大な槍みたいになっちゃうんだよね。だけど、アイツだけは鞭としての性能を保ったまま光を付与できる。特別体質だね」
「へえ!」
ククルは感心したように言うが、
「それだけではあの異様な攻撃の説明には足りんだろう」
「左様。あの扇も鞭も明らかにおかしな動きをしていたぞ。特にあの鞭はな」
メーリックとエーヴェルも会話に割り込んでくる。
「それは、たぶん『異能』とはまた別の魔法ね」
オルフェよりも先に、モニカが答えた。
「正解」
オルフェもそれを肯定した。
「まあ、普通なら《光の剣》の影響下にある物体に別の魔法を重ね掛けすることなんてまずできないから、そう言う意味ではこれも『異能』の延長とは言えるけどね。そう。ローズとリリィは二人とも物体操作の魔法が使えるんだよ」
オルフェはそう言って、顎で闘技場のふたりの少女を指し示す。
「あいつらの武器そのものが生き物のように不自然な動きをしていたのは、何のことはない、二人が魔法操作していただけ。さらにローズは”変化魔法”も重ねている。鞭が伸びたり縮んだり、ロープのように相手を縛ったかと思えば、今度は細切れに切断したり…なんて芸当ができるのは、その都度鞭の形を変えているからなのさ」




